労働力不足の日本では、ビジネスケアラーの生産性向上の方向に改革を
また、日本の介護を担う介護事業者は、基本的に民間企業(営利企業)です。介護が必要な親の自宅が、介護事業者の拠点から遠いと、往復のための時間とコストがかかってしまいます。
しかも、介護事業者の多くは赤字です。そんな介護事業者としては、身寄りがないだけでなく、自分たちの拠点から近い要介護者を優先せざるをえないという事情もあります。
しかしマクロに見れば、この状況は介護のあり方として大きく間違っています。そもそも介護保険制度を成立させている財源は、介護保険料(実質的な税金)でできているからです。
そして今後は、労働力不足の影響もあって、税収が不足していくことは明らかなのです(日本全体の生産性が極端に向上しないかぎり)。
そうした状態にあって、介護で仕事を辞める人が増えてしまえば、国の税収も大幅に減ってしまいます。離職をしないまでも、仕事と介護の両立が困難で、パフォーマンス低下を起こすビジネスケアラーが増えてしまえば、やはり国の税収は下がります。
そうなれば、税収に大きく依存している日本の介護は、根底から崩壊してしまうのです。本当は、介護保険制度を、介護離職を減らす方向、ビジネスケアラーの生産性向上の方向に改革しなくてはいけないのです。
とはいえ日本の官僚は優秀です。そんなことは十分にわかっています。
なので、将来の介護保険制度の改正に向けた議論では、安倍政権時代の「介護離職ゼロ」を受け、この点が長く審議されてきました。結果として健康経営の評価指標にビジネスケアラー支援が入ったり、今後は、人的資本経営の重要項目にもなっていく可能性が高まっています。
しかしそれでも、しばらくは、現状は変わらないという前提で、介護の負担を考えていく必要があります。
介護離職につながる「介護パニック期」を抜け出すには、こうした日本の介護保険制度における過去の設計エラーを背景として理解しておく必要があります。
そのうえで、日本の介護問題をマクロな視点から考えることができ、ビジネスケアラーが上手に両立するための手助けに情熱を燃やす優秀な介護のプロに出会う必要があるのです。
さらに不都合な真実もあります。こうした、仕事と介護をいかにうまく両立させるかのために働いてくれる、真の意味で優秀な介護のプロは、介護事業者の経営者から低い人事評価を与えられてしまうこともあるということです。
なぜなら、介護離職を防止しても、介護事業者の売上には1円も影響しないからです。それこそ、要介護者の自宅が介護事業者の拠点から遠ければ、こうした優秀な介護のプロが、赤字の原因を作ってしまうケースもあります。
このような環境においては、介護離職を避けるための相談をするうえで、本当に優秀な介護のプロに出会うことがいかに難しいかが理解できると思います。
しかし、そうした介護のプロに出会えないと、介護離職のリスクを下げることは(なかなか)できないのです。
文/酒井穣 写真/shutterstock
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