なぜ打率を気にしなかったのか?

言われてみれば、確かにその通りかもしれない。プロ野球では「打率3割」を一流の基準とする向きがあるが、井端さん自身は現役時代、「3割なんてどうでもいいわ」と感じていたという。

また、井端さんが現役を引退し、巨人のコーチに就任した直後に話を聞いた時のことだ。前述のとおり、井端さんはNPBで1912本のヒットを放っている。

名球会入りの資格となる2000本までは残り88本。そこに、悔いはないのか――。そんな質問を投げかけると、こともなげに「あまり意識はしていません」と言い放った。

2000という基準は、あくまでも他者が設けたもの。そこを意識したり、目指すようなことはない。必要なのは自分の中での基準や目標設定だという。

打率などの数字は一切気にしなかったという井端さんだが、一方で「試合に出場する」ということには大きなこだわりも持っていた。プロ野球は、勝とうが負けようがレギュラーシーズンだけでも年間143試合を戦う長丁場。その中で、与えられたポジションで試合に「出続ける」ことに価値を見出し、強いこだわりを持ってプレーを続けた。これもまた、他者ではなく自身の価値観を大切にしている証左だろう。

現役時代の独自の“こだわり”はもちろんだが、現役引退後は指導者としても精力的に活動してきた。野球に対するあくなき「知的欲求の強さ」も、強く印象に残っている。NPBはもちろん、侍ジャパンではU-12の監督、トップチームでのコーチを経験。さらには社会人野球のNTT東日本、台湾プロ野球の台鋼ホークスでも指導を行った。

【侍JAPAN新監督】現役時代、打率を気にしたことのなかった井端弘和が絶対に妥協しなかった数字_2
現役時代には侍ジャパンの一員としてのプレー経験もある 写真/Getty Images

現役時代に中日から巨人に移籍した最大の理由も「他球団の野球を見て見たかった」からだという。