活字メディアの現状―新聞と出版の国際比較
新聞や書籍など、活字メディアの落ち込みが激しいといわれて久しくなりました。活字離れは全世界的に進んでいるのでしょうか。その地域性について地図を描いてみました。
図表5-1は、世界の主な国の新聞(有料日刊紙)の発行部数について見た資料です。国別の発行部数を2019年と2021年で比較しています。
中国は、世界で最も新聞発行部数が多い国です。近年、発行部数は伸び悩んでいますが、2004年の約9350万部(世界新聞協会調べ)から見ると、市場は大きく拡大しています。
インドでは、2010年代から新聞の新規刊行が相次ぎ、それまで都市を中心に購読されていた英字紙をしのぐ形で現地語の新聞が台頭しています。新聞を日常的に読む中産階級が増えていることと、企業にとって着実な広告媒体として認識されているためとみられます。一方、ロシアやブラジル、韓国などの新興国では落ち込みが激しくなっています。
次に、書籍の出版について比較をしてみます。図表5-2は、各国の年間書籍出版点数です。重版(人気が出て売り切れたため再度印刷して販売すること)書籍を1点と数える国とそうでない国がありますので、単純に比べることはできませんが、日々おびただしい数の本が出版されていることがわかります。
出版点数が多いのは英語圏の国で、イギリスとアメリカを足すと中国の倍以上になります。英語の出版物は、作者も読者も英語を母国語とする国以外の人々を対象とすることが多く、特に学術書の出版においては、その分野の用語や査読に通じた専門性の高い出版社を擁するアメリカやイギリスが有利になりますので、両国が抜きんでて出版点数が多いものと思われます。
日本の出版点数は世界4位と、人口でははるかに多いインドやインドネシアよりも出版点数が多くなっています。外国に行くと、文庫や新書、コミック本のような、安いのに良質な紙を使った書籍を目にする機会がなかなかありません。新鮮で着実な情報を、いつでもどこでも手軽に手に取って読める日本の書籍は評価されてよいと思いますし、日本の出版文化を守るためにも、本を読み、買い支えていく必要があるのかもしれません。
図表5-3は、世界知的所有権機関(WIPO)が毎年公表している世界の出版業界の総売り上げを国ごとに比較した資料です。
年間出版点数が世界一のアメリカは、出版収入も世界一である上、2018年からの売り上げ幅を14.9%伸ばしています。対して出版点数が3位のイギリスは、売上高は5位で、売り上げ幅は1.4%減少させています。
同機関が公表している出版物の内訳を見ると、アメリカの出版物の70.1%が一般書(商用)、29.9%が教育・学術書であるのに対し、イギリスは56.8%が一般書、43.2%が学術書と、イギリスの方が学術書の割合が高いのが特徴です。ただ、ドイツのように、学術書が占める割合が20.2%と大きいのに、総売上高も伸び率も日本(学術書が占める割合7.4%)を上回っているケースも見られます。ブラジルやトルコなどの新興国では売り上げの落ち込みが大きくなっています。
「出版不況」は、国により、ジャンルによりまちまちです。信頼性の高い情報を適正な価格で販売し続けることができるか、各国の新聞・出版業界はこれからも難しい対応を迫られるようです。