再び立ちはだかる「専門性」の壁

しかし、ここで再び研究の前に立ちはだかった壁が「専門性」であった。

AIMがたくさんの異なる病気に対して効果があればあるほど、逆に医学者からは受け入れてもらいにくくなる。そこには、「一つのタンパク質(=AIM)がまったく違うたくさんの病気に効果があるというのはおかしい」という考え方があった。

私も医学者だから、その気持ちはよく理解できる。医学は、物事を細分化し、専門性を高めることによって発展してきた学問といえる。病気のある現象を分子レベルで詳細に解き分けていくことによって、その病気がどうして起こるのかを探究してきた。

抗肥満作用も備えたタンパク質「AIM」の画期的な働きとは−−体内の不要なゴミを取り除くことで病気にアプローチ…腎不全に肝臓癌、そして肥満がなくなる日_5

それぞれの病気は、それぞれ異なった特殊な発症メカニズムを持っているのだから、その道の専門家に「AIMという一つのタンパク質で、肥満や肝臓病や癌のすべてのメカニズムが抑えられるなどということはありえない、何かあやしい」と思われてしまうのは当然である。この時点では、AIMが体の中のゴミに作用するメカニズムには気づいていなかったので、AIMの研究をしている当の私も「なぜAIMは、こんなにいろいろな病気に効果があるのだろう」と、不可解に思ったほどだ。

だから、肥満に対するAIMの効果の論文を発表して、翌年には肝臓癌への効果の論文を出して癌の学会で発表すると、「昨年は肥満だったのに、今年は癌ですか」と言われるようになった。もちろん、これは決して感心されているわけではなく、皮肉である。

そして、次にAIMの治療効果が確認されたのが、私が医学の基礎研究を志すきっかけになった腎臓病であった。AIMの守備範囲がさらに広がることで、医学の世界での評判がもっと悪くなるのかと焦りも生まれた。

しかし、実はこれがAIMの研究で二つ目のブレークスルーとなり、AIMの持つ一見バラバラな病気への効果が、一つの共通した原理で結ばれていることを確信するきっかけとなった。

その原理こそ、有賀貞一さん〔一般社団法人SaveCatsFoundation代表理事〕に示唆された「自分でゴミを掃除する力」である。

抗肥満作用も備えたタンパク質「AIM」の画期的な働きとは−−体内の不要なゴミを取り除くことで病気にアプローチ…腎不全に肝臓癌、そして肥満がなくなる日_6
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腎不全末期のネコに驚きの効果
猫の寿命はいまの倍の30歳くらいになる
AIMの猫薬の開発作業

文/宮崎徹
写真/Nicoleくん

『猫が30歳まで生きる日 治せなかった病気に打ち克つタンパク質「AIM」の発見』(時事通信社)
宮崎 徹
抗肥満作用も備えたタンパク質「AIM」の画期的な働きとは−−体内の不要なゴミを取り除くことで病気にアプローチ…腎不全に肝臓癌、そして肥満がなくなる日_7
2021年8月4日
¥1,980
244ページ
ISBN:978-4788717558
世紀の大発見「AIM」で、猫の寿命が2倍に!
しかも、人間のさまざまな病気にも活用可能。
人も猫も、もっと長生きできる未来が来る。


日本では1000万頭近い猫が飼われているといわれますが、その多くが腎臓病で亡くなっています。猫に塩分を控えた食事をさせて日々気をつけていても、加齢とともに腎機能は必ず低下してしまいます。そんな猫の腎臓病の原因は、これまでまったく不明でした。

そんななか、宮崎徹先生が血液中のタンパク質「AIM(apoptosis inhibitor of macrophage)」が急性腎不全を治癒させる機能を持つことを解明しました。猫は、このAIMが正常に機能しないために腎臓病にかかることもわかったのです。

この AIM を利用して猫に処方すれば、腎臓病の予防になり、猫の寿命が大幅に延び、現在の猫の平均寿命である15歳の2倍である、30歳まで生きることも可能であるとされています。

──これは、愛猫家にとっては、とてつもない朗報です。さらに、AIMは、猫だけでなく人間にも効き、また腎臓病だけでなくアルツハイマー型認知症や自己免疫疾患など、これまで〈治せない〉と言われていた病気にも活用が期待されます。

本書は、最新医療の研究現場のリアルを伝えます。
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