サーモン寿司の誕生秘話
これらに加えて、私はさらに、寿司が持つ味のよさはもちろんのこと、その「許容範囲の広さ」が、世界に広まった要因ではないかと考察しています。
例えば、今でこそ、当たり前になったサーモンの寿司は、海外でも人気です。ただ、元々の日本には存在せず、グローバルな交流の中で生まれたものであることをご存じでしょうか。日本人が元々食べていた天然の鮭は、寄生虫がいる関係で生食がされておらず、生のネタは握り寿司になっていなかったのです。
では、サーモンの寿司はどのようにして生まれたのでしょうか。これは、ノルウェーが自国のサーモンを日本に売り込む手段として開発されたと言われています。
ノルウェーサーモンは養殖で管理をされているため、寄生虫リスクが少なく生食ができます。「日本では刺身や寿司ネタになるものは高く売れる」と知っていた当時のノルウェーの担当者は、自国のサーモンを使った寿司を粘り強く売り込みを続けました。その結果、生まれたのがサーモンの寿司なのです。
寿司は歴史の中でも変化を遂げてきましたが、主に魚が使われる「ネタ」+酢飯の「シャリ」で構成されるシンプルな料理です。そして決まりが少なく、様々な文化を許容して取り込みやすい形になっています。
これは、音楽でいうとジャズと似ています。一応、大学時代はジャズ研の部長をしていた端くれ者の私ですが、ジャズも独特のリズムのほかに決まりが少なく、様々な文化を許容して取り込む中で世界中に広まり、進化を続けている音楽です。ジャズは元々アメリカ発祥ですが、すでに一国のものではなくなっています。
さて、先程一旦置いておいた話に戻りましょう。
海外の様々な形の寿司を「それを寿司というのか?」と疑問に思う方もいらっしゃると思います。もちろん、元々の源流である日本の寿司の形やその素晴らしさを伝えていくことは大事でしょう。そして、本来の日本の寿司は、海外では食べたくても食べられない人もおり、そこに高いニーズがあることもその通りでしょう。
しかし、寿司もジャズのように世界中に広まり、一国のものではなくなっています。「グローバルに様々な文化が混ざる中で進化を続ける食べ物」という点に寿司の素晴らしさがあるのではないでしょうか。
そして、魚ビジネスを考える上では、世界中に広まり進化を続ける一大料理「寿司」について知っておくことは重要です。
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文/ながさき一生