大手金融機関の社内ダイニング・ルーム
英国に限らず、欧米では仕事と家庭生活がきちんと分けられていて、取引先との夜の会食はあまりない。仕事上の食事は、もっぱらランチだ。案件が完了したあとの慰労会、ビジネス・チャンスを探るための情報交換、相手になにかを教えてもらうための接待など、目的は様々である。
大手の金融機関は、たいてい社内にダイニング・ルームを持っていて、そこに客を招く。マナーハウス(貴族の館)の一室のような内装で、立派な絵画などが飾ってある。
ランチのスタートはだいたい十二時半である。二人から数人の客を同じくらいの人数で迎え、まずジントニックやブラッディメアリーなどのアペリティフ(食前酒)を手に、立ったままよもやま話をし、その後、着席してフルコースをとる。
メニューはフレンチやコンチネンタルで、例を挙げると、シーフードのゼリー寄せに葉野菜、コンソメスープ、スズキのソテー、ローストビーフにヨークシャープディング、チーズ、ビスケット、ブドウなどのデザート、コーヒーといった感じである。
食事中にはワインが供され、食後に葉巻のほか、ブランデーやポートワインが出ることも少なくない。あまり忙しくない英銀のコレスポンデント・バンキング(金融機関同士の取引)担当のおじさんなどを金曜日に呼ぶと、「今日は思いっきり食べるぞ」という顔でやってくる。たぶん、ランチのあとはほとんど仕事をせず、週末の休みに突入するのだろう。
ちなみにオフィスにあったコピー機の調子が悪いとき、ジャンという背が高くて男まさりの支店長秘書が「このフライデー・マシンが!」と悪態をつきながらコピーを取っていたことがあった。彼女がそばにいたわたしに「ミスター金山、なんでフライデー・マシンっていうか、知ってるか?」と訊くので「いや、知らない」と答えると、「みんなが気もそぞろな金曜日につくられた、ろくでもない機械という意味だ」と教えてくれた。