知的障害と診断されても変わる可能性

医師の中には「知的障害のIQは一生変わらない」と言われる方々もおられますが、私は、それには疑問をもっています。知能検査で知的障害域のIQと出ても、数値は変わる可能性はあります。逆に一生変わらないことを証明するほうが困難ではないでしょうか。

近年、IQは思春期になってからも変化するという報告も出てきています。

2011年、英国ロンドン大学の研究チームが、12~16歳の思春期世代の被験者33人を対象にIQテストを行ったところ、4年後のテストでは20ポイント上昇した人がいることを確認しました(ただし、同じくらい下がった人もいたそうです)。

これだけで結論づけることはできませんが、それでも、そもそも子どもの脳、特に小さな頃の脳がどう変化するかは、未知な部分が大いにあります。

私は認知機能の弱い少年や子どもたちと多く関わってきて、トレーニング次第で大きく伸びる少年や子どもたちも少なからずいることを目の当たりにしてきました。

境界知能や軽度知的障害だとされても、要素的な認知機能(例えば注意力など)に関しては改善していく可能性はあります。程度に差はあれ、それが結果的にIQの変化にもつながらないと誰が証明できるでしょうか。

もしも子どもの可能性を「少しでも伸ばしてあげたい」と思っているのなら、今できることを前向きに取り組んでいく価値は十分にあると信じています。

文/宮口幸治 

#1『「やっぱ無理!」が口癖の男児に判明した”軽度知的障害”の診断…発達障害の
影に隠れてしまう子どもの知的なハンディをみわける3つのポイント』はこちらから


#2『空港で赤ちゃん産み落として殺害し、直後にカフェでアップルパイを「頑張っている自分へのご褒美」とインスタ投稿した女性の裁判によって発覚した事実』はこちらから

『境界知能の子どもたち 「IQ70以上85未満」の生きづらさ』 (SB新書)
宮口 幸治 
「忘れ物が多い」「キレやすい」「手先が不器用」…半分は国が把握できていない”軽度知的障害者”の人口とその特徴_5
2023/8/5
990円
208ページ
ISBN:978-4815609931
日本人の7人に1人! 「普通」でも「知的障害」でもないはざまの子どもたち

【内容】
境界知能の子どもたちは、一見すると普通の子に見えます。
もしも、みなさんの知り合いに境界知能のお子さんがおられたとしても、まず気づかないと思います。その子に道で出会ったら、あいさつを交わして会話も成り立って、困っている子には見えないはずです。あるいは、わが子が境界知能の場合でも、客観的には普通の子に見えるのではないでしょうか。
「普通」の子に見えるのに、「普通」ができない――これは、境界知能の子だけではなく、軽度知的障害の子にも当てはまる場合があります。知的障害でも「軽度」というところがポイントで、一見すると普通の子に見えて、見過ごされてしまうケースがあるのです。本書では、「境界知能の子どもたち」と銘打っていますが、その内容は軽度知的障害の子にも当てはまる部分は大いにあります。

・授業についていけない
・友達とうまくつき合えない
・感情コントロールが下手
……そんな困りごとがあれば、子ども本人のやる気や性格のせいだと片づけるのは早計かもしれません。
この本を手に取った方は、境界知能の子どもの親御さんや、クラスに「気になる子ども」のいる学校の先生、あるいは福祉や心理など特別支援教育の関係者の方が多いかと思います。
親や教師、周囲にいる大人は、その子のしんどさ、そしてしんどさの背景にある認知機能の問題に気づいてあげてほしいのです。
(「はじめに」より) 
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