アウトドアでは何よりも食料とゴミの管理をしっかりと行うこと

「ヒグマの棲みか」と呼ばれる知床半島は、道内屈指のヒグマ密集地帯。1988年の設立以来、野生生物の保護管理・調査研究、森づくりなどを行ってきた知床財団に電話取材を申し込んだ。その際、当日だけで目撃数は8件。「ヒグマが現れたというよりも、そもそも山頂から海岸線までヒグマのいるところですからね」と、スタッフの新庄さんは語る。

斜里町や羅臼町の野営場、オートキャンプ場などの施設は、敷地全体を電気柵で囲いクマ対策を行っている。しかしそれでも、キャンプ場のほか登山道などでは注意が必要だ。
やってはいけないことの筆頭は、食料の管理不徹底。テント内や外に食料を置かない、テント内で調理や食事をしない。調理や食事はテントからできれば100m以上離す、ゴミや食べ残しなどの匂いでヒグマを誘引しない、などのルール徹底を呼びかけている。

知床地上遊歩道に残るヒグマ足跡。写真提供:知床財団
知床地上遊歩道に残るヒグマ足跡。写真提供:知床財団

登山道の野営場には、食料保管庫が数カ所設置されており、また、財団ではフードコンテナの貸し出しや、いざというときのために、20分の事前レクチャーを条件に、クマ撃退スプレーのレンタル(※18歳以上、写真付き身分証明書必要)も行うなどの積み重ねもあり、ここ30数年、観光客・レジャー客に限ってはクマの目立った遭遇事故は起きていない。

テント泊による過去の悲惨な事件としては、1979(昭和45)年、7月に日高山系で起きた「福岡大学ワンダーフォーゲル部襲撃事件」があまりにも有名だ。最初のきっかけは、テントの外に食料を入れたザックをヒグマに奪われたことから。その後3日にわたって同じヒグマに執拗に追われながら6回の襲撃を受け、部員5名のうち3名が死亡した。

クマ用の知床高架木道電気柵。写真提供:知床財団
クマ用の知床高架木道電気柵。写真提供:知床財団
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坪田教授は、一般の人がレジャーに出かける際「ヒグマの棲息地に積極的に入っていくんだ」という心構えと準備を忘れないでほしいと語る。「その場所や施設周辺の情報を事前にキャッチして、出没状況によっては思い切って中止も検討してください」(坪田教授)

ほとんどの場合、ヒグマは「人を避けてくれる」。しかし「重大事故」は低い確率とはいえ起きる。6月12日、札幌市の男性がニセコ町の山にタケノコを採りに入ったまま行方不明に。ヒグマによる事故ではないかと言われている。

また、道東・標茶町周辺では6月24日、このエリアに4年前からたびたび出没し、乳牛を66頭も襲ったのち、駆除されないまま沈黙を保っていた巨大グマ・OSO18が姿を現した。新たに乳牛1頭が殺され、酪農関係者らの深刻さはさらに増すことになった。6月25日には、標茶町の町有林内に仕掛けられたセンサーカメラにその姿が写っていた。OSO18がカラー写真に捕らえられたのは、これが初めてのことだった。

人よりも先に「北海道の住人」であったヒグマ。アイヌ先住民が「キムンカムイ=山の神」として畏敬の念を持ち続けたヒグマとの共存は、困難に直面している。

文/兼子梨花 編集/風来堂

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