「苦労すること=不幸せ」ではない
育児はいずれ終わる。一方で、障がい児育児は介護でもあるので、母親の人生を長く束縛する。だから、障がい児を受け入れられない親御さんを簡単に否定すべきではない。
そんな母親たちのために松原さんは、障がいを持ち、親を失った子どもたちの“家族”になるために、「小さな命の帰る家」を開設し、これからも多くの子どもたちの受け入れを行う予定だ。
松原さんは「社会が生きにくさをつくってしまってるんですよね」と嘆く一方で、ささやかな幸せがあることも強調する。
「私にとってはこの子どもたちはかけがえのない存在で、大きな苦労はありますが、とても幸せです。『苦労すること=不幸せ』ではないと思います。苦労し途方に暮れることがあっても幸せなのです。何をするかが人生ではなく、誰とするかが大切で、私は大和と恵満とともに生きることに価値を見出しています」
前出のAさんも障がい児を育てることをこうポジティブに受け取る。
「うちの子は生死の境をさまようことが多々あったので、 “生きている”という当たり前だと思っていたことが、どれだけありがたいことなのかを知ることできました。
一生懸命、この子が生きようとしている。それが私自身の癒やしになっているのも事実なんです」
今西氏も続ける。
「親御さんの価値観はバラバラ。
例えば、胎児は妊娠22週0日を過ぎれば早産でも新生児医療で助かる可能性がある。そんな子どもを私たちは全力で蘇生しますが、1%でも障がいが残るならいりませんという親もいる。一方で、障がい児のお子さんをかわいらしいと感じて育てている親御さんもけっこういますよ。
ダウン症でも自立して生活しているお子さんは多いから、“ダウン症は障がいではない”ととらえる医療関係者もいます。
ただ、お母さんが子育てによって孤立してしまう事態は避けなくてはいけない。孤立するとキャッチアップが難しいから、そういったサークルにお母さんをつなげることが大事だと思います」
親御さんの負担が少しでも軽くなり社会から取り残されないように、支援制度の整備が一刻も早く進むことを願ってやまない。
取材・文/中西美穂
集英社オンライン編集部ニュース班