医療時ケア児の介護で崩壊する生活

松原さんは医療的ケア児を育てる難しさをこう話す。

「恵満ちゃんは、本当に入院も手術も多くて、ずっと付き添い入院していたんですよね。それで私自身も心を病んでしまって。本当に医ケア児(医療的ケア児)の親御さんの大変さが身に染みました」

障がい児の養子縁組斡旋活動をするなかで、松原さんは現状をこう嘆く。

「今でも多くの電話をいただきますが、全員は救えない。辛いですが、緊急性が高いものから、養親とつなげていっていますが、行政も対応が遅いので僕がやるしかないのです」

社会と医療の発展の狭間で苦しむ親子たち。筆者も多くの親子の姿を見てきた。
「ごはんの時間よ」と、その医療的ケア児の母親、Aさんは慣れた手つきで、子どものお腹にある胃ろうのボタンをあけ、注入器でミキサー食を流し込む。
Aさんの子どもは胃ろうや気管切開など多くの医療的ケアが必要で、Aさんは夜寝ることもままならない。

「子どもは自分で寝返りがうてないので、床ずれができないように夜中に何度も起きて、体の向きを変えてあげるんです」(Aさん)

松原さんの奥さんと大和くん(左)、恵満ちゃん
松原さんの奥さんと大和くん(左)、恵満ちゃん

Aさんの平均睡眠時間は約3時間~5時間だ。床ずれを防ぐための体の向きを変えるだけでなく、夜間は呼吸器をつけているためアラームで目を覚ますことも多い。

「この子が産まれてから、ゆっくり眠れたことなんてないですよ。仕事は当初、育休や介護休業を使ってどうにか続けていたのですが、医療的ケア児のあずけ先が全然なくて、体力面で限界がきて何度も倒れてしまい、会社も辞めざるを得なくなった。

今は夫ひとりの収入に頼っていて家計は正直厳しい。でも、我が子だから受け入れる、受け入れざるを得ないんです。
ただ、子どものために、仕事、余暇、自分の人生を犠牲にしている、と感じているのも事実。私たちはささやかな生活を楽しみたかっただけなんですが……」(Aさん)

Aさんは「いかに睡眠を確保するか。それを考えてばかり。自分の人生、いったい何なのかなって」と諦めにも似た言葉を漏らしていた。