夕張にとって頼みの綱だった中国人T社長

まだ続きがあって、香港ファンドの手に渡った「夕張リゾート」の運営会社も衣替えして新しくなった。その会社とは、夕張リゾートオペレーション株式会社である。その新社長の中国人T氏がやる気満々だと聞いて、夕張市は当時、大きな期待をもった。

「夕張リゾートオペレーション株式会社のT社長(原文は氏名記載)は社長就任後、私どもの早期再開の強い思いにお応え頂き、早速市内に居を構えスキー場再開に向けた諸準備を進めてくださいました。私ども市ともコミュニケーションを欠かさず、作業の進ちょくをご報告くださり、…また既に多くの市民の皆様とも積極的に交流してこられました」 (21年11月19日、厚谷司氏のフェイスブック)

知人から教えてもらったがSNSでそう発信したのは、23年4月に再選した現市長の厚谷司氏である。過剰な敬語に違和感を覚えるが、大切な人なのだろう。

長年、夕張に暮らしてきた老店主は私にこうぼやいた。

「市長は観光再開のお願いに行くだけよ。中国人のリゾート業者には何もモノが言えない」
夕張市にとっては頼みの綱だったT社長だが、長くは続かなかった。

欧州よりはるかに近く土地売買規制も投資規制もないに等しい北海道が中国の餌食に? 昨今の地価高騰に潜む資産隠しのマネロンと匿名投資の可能性_3

窮状を打開する策は、インバウンド+移民しかない

22年4月、夕張リゾートオペレーション株式会社を辞任したT氏は、自身が会長を務める法人をベースに夕張で別の開発事業を手掛けることにしたという。立場をデベロッパーに変えた。

一連の経過に法的な問題は何もないが、外資系の企業や関係者に振り回され、何ら実のある交渉ができなかった夕張市は大丈夫か。情や阿吽の呼吸、口約束……、そんな相手頼みの旧スタイルだけではグローバルな市場では通用しないのはいうまでもない。

夕張市は破綻して16年が経ったが、06年当時1万3000人だった人口は、今や半減して6700人(23年2月)だ。市役所では中途退職者が相次ぎ、人材流出が止まらない。給料は3〜4割も削減されている。かろうじて道庁からの出向者たちが市政を支えているが、この集団も24年には半減する。行政機能の低下は否めない。かつてはブームタウン(にわか景気に沸く町)の時代も経験した夕張市の未来が、私は本当に心配だ。

もっとも、アドバンテージはかろうじて残っている。道知事になった鈴木直道氏は知らんぷりはしないだろうし、ニトリが夕張市に5億円以上の寄付を続けてくれている。心強い行政と経済界の応援団がついている。

とはいうものの、市政の維持が難しくなり、担い手も見えず、生き残るための選択肢を失っている。窮状を打開する策は、インバウンド+移民しかないかもしれない。それが最後のカードになる。

この先の夕張は紆余曲折を経ながらガバナンス形態が少しずつ変わりゆき、時間はかかるだろうが、新しい入植者たちによる自治区的要素をもつエリアに置き換わっていくのかもしれない。北海道全体でもそうした市町村が増えていくのではないかと、私は危惧している。

夕張のこの現実に対して目をそらすことなく、変貌していく社会の到来とそういった社会の是非について、国として議論しなければならないときが来ている。