「年だからって逃げない、人や時代のせいにしない」76歳の若手芸人「おばあちゃん」が貧乏、乳がん、介護生活を経て笑いにかけた夢_7
一時はコンビを組んでいた

「人や時代のせいにしない」おばあちゃんの人生哲学

そして2019年に72歳でプロデビュー。NSC卒業後は、劇場所属を目指すオーディションメンバーとして若手芸人向けのネタ見せライブに出演して芸を磨いていた。そして2023年6月には、バトルライブを勝ち上がり、神保町劇場のレギュラーとなったのだ。

「作家の山田ナビスコさんは『とにかく自分のペースで、楽しんでやりなさい』といつも言ってくださいました。自分の好きなネタをやったら、たまたまうまくハマったという感じで。自分でもびっくりしました」

「年だからって逃げない、人や時代のせいにしない」76歳の若手芸人「おばあちゃん」が貧乏、乳がん、介護生活を経て笑いにかけた夢_8

劇場所属が決まってからは、友人・知人から「おめでとう」とたくさんの声が届いた。ひざのリハビリで通っていた整形外科でも“身バレ”し、お祝いの言葉をかけてもらったそう。ただ唯一、ご近所にはあまり知られていないようで……。

「ご近所さんは私が芸人なの、たぶんまだ知らないです。渋谷のヨシモト∞ドームでのライブ後、でっかい荷物を持ってウロウロ夜中に帰っているとき、ゴミ捨てに来た隣の人とたまたま会って。『どうしたんですか』と聞かれて『仕事です』と言ったんですね。

『えっ、こんな時間まで。どこまで?』っていうから『渋谷です』って言うと、もうそれ以上みんな聞かないんです。危ない仕事してんじゃないかと思われているのかも」

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病気や家族の介護などの困難を乗り越え、大学入学やお笑い芸人への挑戦という夢を諦めなかったおばあちゃん。

「やりたいことがあったらやる。年だからって逃げない、人や時代のせいにしない。年取ってからでもいくらでもできるじゃない。親が貧乏だ、世の中が貧乏だって言ってもしょうがない。貧乏だから楽しめることがある。

今の若い人は、昔みたいに働くところがいっぱいあって働けば働くほどお金が稼げるような時代じゃないからかわいそうだなと思う。でも、こんなおばあさんに『頑張れ』って言われるの嫌でしょ。若い人は自分の力で明るくならなきゃね」

将来は、介護施設などで高齢者に向けてネタを披露し、共感と笑いを呼びながら同世代を明るくすることが夢と語る。憧れは綾小路きみまろの話芸だ。

「この年になると、残りの人生、楽しく生きたいじゃない。コロナで外に出られないからって足腰が弱っちゃってる人もいるし、この世の終わりみたいな顔して歩いてる人もいるけど、冗談じゃないよと思ってね。もうちょっと年寄りも元気出してほしいな!」

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取材・文/堤 美佳子
撮影/柳岡創平
写真提供/吉本興業
編集/一ノ瀬 伸