「あんたはただのスケベですよね?」

オンラインで取材に応じた久志は、穏やかな表情を浮かべ、誠実を絵に描いたような人だった。

「もうお金は返ってこないという覚悟がありましたし、警察からは犯人を逮捕するのは難しいと言われております。ですから私の失敗を、こういう愚かな現実があったんだということを伝えていただければと思うんです」

久志が最初に警察へ相談に行ったのは、幸子の捜索願を出すためで、計4回の振り込みのうち、3回まで振り込んだ後のこと。しかし、担当の警官からは「その女性とは出会い系サイトで知り合ったんですよね?」と何度も訝しげに聞かれ、惨めな気持ちになった。

「その聞き方から、『あんたはただのスケベですよね?』と思われているみたいで、きちんと相談できなかったんです。あの時に説明してくれれば、最後の170万円は振り込まずに済んだかもしれません。なぜ気づいてくれなかったのか抗議しようと考えましたが、そうしてしまうと自分が小さな人間になると思ってしまったんです」

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ちょうどその頃は、空港で幸子に落ち合えなかった時期と重なる。結局、警官の物言いに口を閉ざしてしまった久志は、最後の170万円を注ぎ込んだ。

再び警察署へ駆け込んだ時には、「すべて偽りですよ」と告げられた。