薄れた人口危機意識
世界は多重危機の時代に入った。コロナ禍、ロシアによるウクライナ侵攻、資源エネルギーの高騰と世界的なインフレ、そして従来からある気候変動も危機感が高まっている。
日本もそうした重層化する危機に翻弄される中で、本来、日本の未来に最も大きな影響を与える課題に対しては逆に危機感が薄まっている。その危機とは「人口問題」に他ならない。
2017年に刊行した拙著『限界国家―人口減少で日本が迫られる最終選択』(朝日新書)では巻頭推薦文を故堺屋太一氏に執筆していただいた。同氏はその中でこのように記している。
「実際、人口減少こそは、2020年代の日本が直面する最大にして喫緊の重要問題である。このことは、全国の人口減少の進んでいる地域、いわゆる『限界都市(地域)』に一カ月も住み、現地の産業や文化、生活に携わってみれば、誰もが痛感するはずだ」
人口減少は何をもたらすのか?同氏はこのように指摘する。
「人口が減少することは、あらゆる産業が不活発になり、規模が縮小し、営業が困難になるだけではない。不動産は無価値になり、結婚は難しくなり、友達も相談相手も、お祭りやイベントも、慰め合う相手もいなくなることである」
そして、今後の予測としてこのように述べる。
『東京を除く』日本のほとんどの地域が危機に曝さらされている
「今や『東京を除く』日本のほとんどの地域が、そのような危機に曝さらされている。恐らく2020年の東京オリンピック・パラリンピックの空騒ぎのあとでは、東京にも人口減少の脅威が、確実に押しかけて来るだろう」
では実際はどうなったのか?
2022年5月1日現在の東京都が発表した「東京都の人口(推計)」では、東京の人口は対前年同月比で2万2595人の減少となった。コロナ禍により人口の流動性が高まっているものの、東京にも本格的な人口減少が迫っていると言えるだろう。
全国レベルではより深刻な状況が生まれている。
2022年9月16日、厚生労働省は2021年の「人口動態統計(確定数)の概況」を発表した。出生数は81万1622人と前年より2万9213人減少し、合計特殊出生率は1.30で前年の1.33より低下した。コロナ禍によって少子化に一層拍車がかかったことが明らかになった。