私たち、株式会社はじめます
「......株式会社って、あの、株式会社?」
「そっ、株式会社っていう仕組みをマネしたら、もっともっといろんなことができるみたいだしさ」
ヒロトは『教科書』の「会社」のページをひらいてみせた。
〈株式会社は、お金や物を出す投資家・出資者と、そのお金や物をつかってビジネスをする事業家を出会わせる仕組みだ。
世の中にはビジネスに関わりたいけど経営するのはめんどくさいという人もたくさんいる。そんな人たちにお金や物を出してもらう(出資という)。株式会社ではお金や物を出した人のことを株主という。株主という形で会社の一員になってもらうのだ。〉
「リンには、ぼくといっしょに取締役になってもらいたいなあって。ほら、ここ」
ヒロトは「会社」という章の最後の行を指差した。
〈ちなみに運営をおこなう人、集めたお金や物をつかって事業をおこなう人を、取締役という。取締役は事業を成功させるように努力し、儲けがでたら株主と儲けを分ける。〉
ヒロトは、株式会社ならもっとたくさんのものを取りそろえて売ったり買ったりできるようになると、リンに説明した。野菜だけじゃなく、もっといろんなものを集めて売ってみないか、と。
「ねえ、放課後なんでも市とかって名前でさっ、リンはどう思う?」
リンは考えてみた。たしかに、ビジネスのおかげでみんなの育てた野菜がムダにならなかったし、それに、ヒロトとも仲直りできた。だったら、株式会社を作ったら、もっともっと面白いことができるのではないだろうか。そう思えてくる。
「......うん、株式会社ね。......いいかも」
ヒロトの説得が効いたのだろうか。いや、今日の達成感が影響しているかもしれない。
理由はどうあれ、リンが取締役になってくれることになった。
「とりあえず、このお金はクラスみんなのものだから、明日このお金について報告しな きゃね。で、そのときに株式会社についてみんなに話してみようよっ」
ヒロトが、さらに付け加えた。
「リン、このお金はリンに明日まで預かってもらうのが一番安心だと思うんだけど、ダメかなっ?」
「......べつに、いいけど」
「ありがと。じゃあ、リン、これね」
「......ちょっと、待ってて。......ねえ、お母さーん、封筒ある?」
リンは、母親から封筒をもらうと、そこにきれいにそろえたお札をつめていった。硬貨も、1枚ずつ数えながら、封筒に入れていった。
「......ねえ、この『教科書』、1日だけ貸してくれない?」
「ええ? もちろんいいよっ」
気がつくともう、夕日が二人を照らしていた。
#1「知らないと大損!? 「お金優位」から「人優位」へ変革している日本経済。大重版『13歳からの経営の教科書』著者が教える、「所得は創造できる」時代に身につけたい経営マインド」はこちらから
#2「不思議な本との出会いが、中学1年生に飲み物ビジネスを始めさせるが、友達から「サギじゃん、ズルじゃん、悪いことじゃん」と言われ…」はこちらから