防大の現状改善は喫緊の急務だが、問題の根源は…

この欠落を埋めるために、多くの幹部自衛官が頼ったのは、直接の先輩であった旧陸海軍の価値観、つまり戦前の国防観ではなかったか。なるほど、帝国海軍直系と自認し、公言する海上自衛隊を除けば、陸上・航空自衛隊は旧軍とは断絶しているとの建前を取っている。

自衛隊が抱える病いをえぐり出した…防衛大現役教授による実名告発を軍事史研究者・大木毅が読む。「防大と諸幹部学校の現状改善は急務だが、自衛隊の存在意義と規範の確定がなければ、問題の根絶は期待できない」_3

しかし、実際には、旧陸海軍のあり方が模範とされ、もてはやされている例が少なくないのは一目瞭然であろう。かような軍隊規範の代替行為が、未来の将軍提督に対し、日本神話にもとづく国防意識の涵養(かんよう)が説かれるなどというグロテスクな事態を招いているのではあるまいか。

そう考えると、等松論考が剔抉(てっけつ)【11】したのは、憲法と自衛隊をめぐる深刻な問題であったと思われるが、その議論にはいっそうの紙幅を要することでもあり、ここでは、自衛隊の存在意義の観点から、今回暴露された諸問題への対応に行論【12】を絞ることにしよう。

繰り返しになるが、防大、また諸幹部学校などの現状改善は、もとより喫緊の急務である。しかし、自衛隊の存在意義とそれに基づく規範の確定がなければ、問題の根絶は期待できまい。それなくしては、等松論考に述べられたような事態が、時と場所、かたちを変えて、再発することになろう。

幸いにして、自衛隊は存続期間において旧軍を超え、しかも、その間、殺すことも殺されることもなしに、日本の安全保障を安泰たらしめてきた、輝かしい歴史を有する。「戦わずして戦いを防いできた」ことこそ、「民主主義国家の軍隊」の真骨頂である。一部の幹部自衛官がいう、自虐史観へのアンチテーゼによる動機づけなど必要はあるまい。

民主主義国家の自由と繁栄を守る崇高な任務についているとの誇りを強調し、より適切な自衛官の防衛意識をつちかうための規範を打ち立てることは、けっして困難ではないはずだ。悪弊を根本的に除去するには、そこに手をつけなければならないのではなかろうか。

最後に、航空自衛隊歌「蒼空遠く」(海老根達 作詞)の一節を引用しておこう。

「むなしかる栄枯の夢は さめて我等に惑いなし」

自衛隊が自浄作用を発揮し、一日も早く惑いなき正道に戻ることを期待する。


以下は、編集部による補註

【1】恐れや不安を抑えきれず、心配でならない、の意。
【2】等松論考で示された、総務部(事務官/防衛省から出向してくる行政官僚)を中心としたとした防大を運営する官僚グループ。ここには副校長や学校長といった指導部も含まれる。

【3】卑しい悪習。
【4】小事にとらわれ、あくせくすること。
【5】自分の考えをもたず、周囲の雰囲気に流されること。
【6】人のいいなりになり、おもねるさまをいう。
【7】手をこまねいて、ただ眺めている様子。
【8】国を治める上でのさまざまな規律を引き締めて不正を厳しく取り締まること。
【9】排外的で極端な自国民優越主義。
【10】時代錯誤の意。
【11】えぐり出すの意。
【12】論を進めていくこと。

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