AIによる会社経営は、まだSFの世界の話

相手を是が非でも説得しようという気迫も生まれません。その結果、不良債権の一括処理と無配の判断は大勢の意見によって引っくり返され、不良債権はそのままに、無難な道を選択する可能性が高くなるでしょう。

仕事は、能力や人間性を前提とした信頼の上に成り立つものです。AIが経営にまつわるすべてをこと細かく判断し、従業員はそれにただおとなしく従うだけであれば、社員間の関係性は希薄なものになります。

上司が何か指示を出しても、それがAIの判断によるものであれば、部下と上司の間に信頼関係は生まれません。互いの能力を認め合うなかで生まれるはずの社員同士のつながり、連帯感といったものもなくなるでしょう。

またAIの奴隷のようになって仕事をするだけでは、仕事へのモチベーションも生まれず、会社はやがて活力を失いかねません。

個人がシンプルなビジネスモデルの商売をするなら、AIに経営の主要な部分について判断を任せることはあり得るかもしれません。ただ、規模がそれなりに大きく、業務内容が複雑で多岐にわたっているような会社であれば、AIに経営判断を委ねるのは危険すぎます。

この先、AIが驚くほど高度な進化を遂げればわかりませんが、それはもう少し先の話になるでしょう。

今の段階ではAIによる会社経営は、まだSFの世界の話だと思います。ただし今後は、経営以外の多くの仕事には、AIがこれまでの社員以上の力を発揮することは間違いないでしょう。

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『仕事がなくなる!』 (幻冬舎新書)
丹羽 宇一郎
2023/5/31
990円
192ページ
ISBN:978-4344986947
昨今のAIの進化は凄まじく、多くの中高年が「自分の仕事の賞味期限はいつまでか」と戦々恐々としているだろう。世間では「リスキリング」がもてはやされているが、簡単に身につくスキルを学んだところで、一瞬でAIに追い抜かれてしまう。人生100年時代といわれる昨今、AIを超える働き方をするにはどうすればいいのか。著者は「AIが持ち得ない、人間独自のもの」に注力すればいいのだと力説する。現状維持の働き方を続ける人は、仕事どころか、居場所もなくなる!
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