需要の多様化と、デジタルゆえの自由さが複雑化を招いたか
ここからは松屋の券売機事情に関して、飲食店コンサルタントとして数多くのメニュー戦略をサポートしてきた笠岡はじめさんに話を伺った。
「今回話題になった“操作の複雑化問題”ですが、私は松屋だけではなく、2018年ごろから導入されはじめた、これら“デジタル式券売機”を使う外食チェーン全体に共通する問題だとみています」(飲食店コンサルティング会社・飲食店繁盛会の笠岡はじめさん)
デジタル式券売機の複雑化の理由はどこにあるのか。
「大盛り、小盛り、肉多め、肉少なめ、味噌汁をつけるか否かなど、消費者の需要が多様化したことですね。こうした客ごとの細かな好みのオーダーに応えるためと、なにで支払うかという会計方法の多様化やポイント対応の有無も、複雑化に拍車をかけています。
そしてよくも悪くも、デジタル券売機は物理的なボタン数に制限がないので多様化にどんどん応えられてしまいます。ですが、実際に注文する消費者の立場で見ると、選択肢が膨大になって、頼みたい商品になかなかたどり着けないというストレスを与えてしまっているのです」
笠岡さんは、企業はただ選択肢を増やすだけではいけないと指摘する。
「松屋の券売機のUIは、多様化した需要をそのまま提示していますが、必要なのは“基準”です。たとえば料理のカテゴリのなかでも、主役と脇役のカテゴリをわかりやすくしたり、ひとつのメニューを選択したら関係がないボタンは表示しないようにしたり、選択肢を狭めていくプログラムを導入する必要があると思います。
とはいえ、デジタル券売機はこうした改善を比較的すぐ反映できるところが強みでもあります。実際、今回松屋は批判ツイートが話題になってから、わりとすぐに決済ボタンの改良を行っていますよね。これはボタンがデジタルなので元プログラムの配置調節をすれば、すぐに全国の店舗に反映できたからです」
松屋を含む牛丼業界の券売機事情は、今後どうなっていくのだろう。
「デジタル券売機は導入されてから、まだ日が経っていないシステムです。今回のような批判は、手探りでデザインしている松屋にとっては貴重な改善材料なので、結果的にありがたかったはずです。
一方のすき家ですが、業界NO.1の資金的余裕を生かして、現在はデジタル券売機と座席のタブレットの2軸で効率のいい方法を探っている状態です。松屋の券売機の今後を見て方向性を固めていくつもりかもしれませんね。吉野家に関しては高騰する人件費をかけてでも、オールドスクールなやり方を貫くことで他社との差別化を図ろうとしているので、デジタル方向にはあまり進まないかもしれません」
デジタル化したことでほぼ際限なく情報が表示できてしまう最近の券売機。ゆえに“情報の手綱取り”とも言えるメニュー表示の改善は、松屋にとって今後も大きな課題になっていきそうだ。
取材・文/TND幽介/A4studio