インド観光キャンペーン「信じがたいほどのインド」…たしかに信じがたい国
このように、経済力や軍事力のようなハードパワーの向上が著しいのはたしかだが、インドは世界のひとびとを惹きつける魅力、いわゆるソフトパワーの源にも恵まれている。
あの白亜のタージ・マハルをはじめとして、インドは長い歴史と文明を通じ、複数の宗教と文化が織りなすなかで培われた多くの世界遺産を誇る。インド政府が観光キャンペーンとして掲げる「インクレディブル・インディア(信じがたいほどのインド)」というのは、けっして誇張ではない。インドを旅していると毎日、想像できないことをいくつも目にするし、自分自身が体験する。世界中の多くの若いバックパッカー、年配のツアー客らを魅了してやまない国だ。
インドは、かつてあのビートルズも修行した、ヨガ発祥の国でもある。モディ政権は、ヨガを5000年のインドの伝統が生んだ貴重な贈り物だとして、国連に働きかけ、6月21日を「国際ヨガの日」と定めさせた。以来、世界各国のインド大使館が中心となって、ヨガの普及に努めている。
世界一の映画大国であることもよく知られている。映画産業の中心地、ムンバイは「ハリウッド」にちなんで「ボリウッド」と称される。歌って踊るインド映画が人気なのは、いまや南アジアとインド系住民の多い国にかぎらない。「きっと、うまくいく」(2009年)、「ダンガル きっと、つよくなる」(2016年)、そして「RRR」(2022年)など、欧米や日本でも記録的な興行収入となる映画は多い。
平和主義者のガンディーを重んじる「マイノリティ弾圧国家」の矛盾
スパイスの効いたインド料理も、世界各地で人気を博している。筆者はスイスのアルプスの観光地でインド料理店を見つけて、仰天したことを覚えている。
ナンで食べるお馴染みの北インド・カレーだけではない。日本でも、南インドの米で食べるサラッとしたカレーや、魚介の出汁が特徴のベンガル・カレーなどを提供する店があちらこちらにある。それに舌鼓を打つのはインド人、インド系住民だけではないのは、日本語のレストラン・ガイドブックがいくつも出ているのをみればわかるだろう。
これらにくわえて、インドには誇るべき思想や理念のシンボルがある。インドの政治指導者たちが、事あるごとに世界に向けて強調するのが、「ガンディーの国」というアピールだ。
非暴力を実践した平和主義者であり、宗教間の融和を説いたマハトマ・ガンディーは、インドのモラル、良心を体現する偶像として位置づけられている。1988年の核実験、中国やパキスタンに対する軍事力増強と対決姿勢、モディ政権下のヒンドゥー・ナショナリズムとマイノリティ弾圧といった動きは、これとまったく矛盾するように思えるかもしれない。