生徒の下校時刻は18時台?
このように学校は、半世紀にわたって労働時間の管理がきわめて脆弱なままに、日常の業務が回されてきた。
それを象徴するのが、教員の定時と子どもの学校滞在時間との関係である。2010年代半ばの頃、私はある教員組合のイベントに参加し、長時間労働について議論を重ねる中でさまざまな意見を拝聴した。当時の私は、教員の部活動指導における過重負担について問題提起している最中であった。
そこでの参加者の声から、「そもそも子どもの下校時刻が、教員の定時の時間を超えていることが根本的に問題だ」という認識に至ったことを、はっきり記憶している。私にとっては新鮮な情報であったと同時に、あまりにも根本的な次元で理屈が通っていない事態が起きていると感じた。
先に言及した「A中学校学校生活のきまり」を思い起こしてほしい。「最終下校時刻」が「4月から10月は18時30分、11月から3月は17時30分」と記されていた。部活動の練習のために、生徒の下校時刻が、教員の終業時刻を超えていると推測される。A中学校では、生徒が教室への入室を完了するのが8時ちょうどであるから、教員もどんなに遅くともその時間には勤務が始まっているはずである。
教員が善意で無給のまま生徒の教育活動に時間を割いている
そこで仮に、教員の始業時刻も8時ちょうどだとしよう。
公立校教員の所定労働時間は7時間45分であり、途中に45分間の休憩が設けられている。フルタイムの場合、少なくとも8時間30分は学校に滞在し、終業時刻は16時30分となる。ところが、生徒の「最終下校時刻」(しばしば「完全下校時刻」とも称される)は、4月から10月は教員の終業時刻を2時間も超えている。11月から3月でさえ、1時間の超過である。
給特法では、ごく一部の業務を除き、時間外労働を命じることはできない建前になっている。時間外労働が命令されうるのであれば所定の終業時刻を過ぎた後に生徒の指導に従事することも想定できるが、現行法下ではそれはありえない。
教職員でシフトを組んでいるというならば対応が可能かもしれないが、そのような運用もない。結局のところ終業時刻を過ぎてからは、教員が善意で無給のまま生徒の教育活動に時間を割いている。
顧客(生徒)の滞在時間が、従業員(教員)の就労時間よりも長く設定されている。根本的にあってはならないことが、常態化している。それにもかかわらず、そうした時刻設定は、対外的な文書を含めさまざまな文書に明確に記載されている。あまりにも堂々と、矛盾した状況がまかり通っている。