「メイたちお嬢様ならどうする?」と考えた

——先ほどおっしゃったように、メイが目を向けるものもどんどん広く、大きくなっていきますね。

そうでないと、(かつて理人が仕えていた)詩織ちゃんと同じことになっちゃうんですよ。彼女はずっと理人のことを思って、理人のためなら何でもすると考えている。ある意味、純粋に理人を愛してはいたんだけれど、彼女に見える世界はそこまで、なんです。

だから理人は、こんなふうに自分のことを愛するだけのお嬢様はいらない、と思ってしまった。それを超えたところに何か目指すものがあるお嬢様なら、喜んでついていく、ということですね。

——『メイちゃんの執事DX』最終回の1つ前の回では、メイたちが聖ルチア学園を卒業したあとに、世界規模の「災い」か「争い」があったことが示唆され、メイが地元に作り上げた「“完全自給自足型”の町」が機能していることが友人・みるくの口から語られます。さらにメイをはじめ、お嬢様たちが友人を助けるため、あるいは復興のため、各地で奮闘していることもわかります。
17年間続いてきた少女漫画『メイちゃんの執事』で今、現実の困難とリンクする描写がされたことにぐっときました。

【漫画あり】『メイちゃんの執事DX』最終巻! 作者・宮城理子が振り返る17年の歴史「もうこんなに長い連載をやることもないと思います」_3
「まさか日本が 世界が こんなことになっちゃうなんて…」と落ち込むアカリ(メイの友人の1人)に、みるくが力強く語りかける

東日本大震災のときに、めちゃくちゃへこんだんです。人間が生きていくうえでは、漫画家である私は何の役にも立てていないんだ、無力なんだ、と。

そう思いながら、被災地への「応援色紙」を描いていたんですが、「執事というものを従えたメイたちお嬢様なら、こんなときどうするかな?」と思ったんですよ。そこからいろいろなことをずっと考えてきて……話していると涙が出てしまいますね。それでこうして、物語の最後にちょっとだけ入れさせてもらいました。

——みるくが、まさにその「どうするか」を「こういう時こそ矢面に立ち 知恵と勇気と『ごきげんよう』で華麗に乗り切る それが真のお嬢様力」だと端的に言い表していましたね。この回を読めてよかった、と思いました。

そう言っていただけて、よかったです。

ずっと手伝ってくれていた友だちは、この回のネームを見て「読者はこの作品にこういうものは求めていないと思う」と言っていましたね(笑)。私も当初は、メイの高校の卒業式を描いたら、ちょっとエピソードを付け足して終わろうと思っていたんですけれど。

——でも今までのメイたちを見ていると、この回で描かれていることがとても腑に落ちます。端々に希望も感じられて、きっと多くの読者に響いたと思います。

最終回に向けて入れるには、余分なものなんですよね。だけど、入れておきたかった。担当さんが「そんなのダメですよ」と言わずにネームを通してくれたおかげですね。

——(担当編集)でも、最初のネームは直していただいたんですよね(笑)。

——どんなふうに直したんですか?

——(担当編集)事前打ち合わせで、しっかり振り切って描くバージョンと、ちょっと表現を柔らかくしたバージョンを考えている、と宮城先生がおっしゃっていて。「柔らかくしたほうには、こういう旨味がある」という話を聞いて、そちらで描いていただいたんですよ。でも読んでみたらあまり伝わってこなかったので、やっぱり振り切ったほうで描きましょう、ということになりました。

振り切りましたね(笑)。

——17年間の連載中、読者の方からはどういった声が届いていましたか?

「メイちゃんと理人がラブラブなところが見たい」と言ってくださる方が圧倒的でした。なので、連載中はもっとそちらに寄せた描写を増やそうかな?と思ったこともありましたね。

ラストも、17年間付き合ってくれた読者さんが望むストーリーを描き上げるという道、読者さんにこの作品を差し上げるという道もあったと思うのですが…コロナで1年間ぐらい悶々と考える中で、結局自分が思ったとおりに描いて終わる道を選びました。

——(担当編集)なぜそちらの道を選んだんですか?

死ぬときに「やっぱり思った通り描いておけばよかったなー」って後悔するなと思ったんですよ(笑)。もうこんなに長い連載をやることもないと思うので。