日本特有のいじめ構造「四層構造」
実は傍観者がパワハラを加速させる構造は、日本特有のものと考えられています。「子どもの世界は大人世界の縮図」と言われますが、1980年ごろから日本も含め世界の国々で、「子どものいじめ」に関する研究が蓄積されました。その中で、日本には欧米とは異なる独特の「いじめの構造」があることがわかりました。
欧米のいじめでは、「強い者が弱い者を攻撃する二層構造」が多いのに対し、日本では「いじめる人、いじめられる人、はやし立てる人、無関心な傍観者」という4種類の人で構成される「四層構造」がほとんど。四層構造では強者からの攻撃に加え、観衆や傍観者からの無視や仲間はずれといった、集団内の人間関係からの除外を図るいじめが多発します。
いわば「集団による個の排除」です。その結果、被害者は孤立し、「自分が悪いのでは?」と自分を責める傾向が強まっていきます。
もちろんこれは、「子どものいじめ」研究の中で確認されたものですが、いつだって子ども社会は大人社会の縮図です。
「さわらぬ神にたたりなし」という言葉があるように、いじめを目撃しても「自分には関係ない」と放置したり、遠くから乾いた笑いを浮かべながら見守ったり。あるいは、「倫理委員会に報告したら、報復措置をとられるかもしれない」と考えたり。
そんな見て見ぬふりをする同僚たちの行動が、いじめられている人をさらに追い詰める。誰にも言えなくなる。逃げる気力も失せる。そして、傍観者は傍観者にさらに徹していくのです。
「人」より「企業」を優先した2020年執行の「パワハラ防止法」
日本では、やっと、本当にやっと2020年6月1日より改正労働施策総合推進法、通称「パワハラ防止法」が施行されました。パワハラ防止法では、具体的な防止措置を企業に義務化し、厚生労働大臣が必要と認めた場合、企業に対して助言や指導、勧告が行われるようになりました。
しかし、罰則の規定はなし。国際労働機関(ILO)の「働く場での暴力やハラスメント(嫌がらせ)を撤廃するための条約」ではハラスメントを「身体的、精神的、性的、経済的危害を引き起こす行為と慣行」などと定義し、それらを「法的に禁止する」と明記しています。
しかし、日本は「禁止」の文字を最後まで入れませんでした。
「法的に禁止」→「損害賠償の訴訟が増える」という流れが予想されるため及び腰になった。日本は「人」より「企業」を優先したのです。
ジェンダー問題しかり、最低賃金しかり、ハラスメントしかり……。どれもこれも「人の尊厳」という、ごく当たり前に守られるべき問題なのに、正面から向き合おうとしないのが、「僕たちの世界です」。