30年後、野球部員は「1 校わずか3.5人」に

日本ではスポーツの普及に学校の連動部が大きく貢献してきた。原点は明治時代に外国人教師が大学で伝えた競技で、100年以上かけて「学校ごとに部活がある」文化が培われた。それが崩れようとしている。

原因は少子化だ。日本中学校体育連盟によると、21年度時点で全国には19競技1793の合同チームがあり、既に01年度の6.7倍となっている。

規模の縮小はとどまることを知らず、野村総合研究所の推計では中学軟式野球の1 校当たり部員数は18年の19.9人が30年後に3.5人に減る。6校集まらないと紅白戦もできない計算だ。野球ばかりではない。男子サッカーや女子バレーボールの1校当たりの部員数も30年後には半減するという。

合同チームをつくれば問題が根本から解決するわけでもない。部員の送迎や練習時間の調整など学校の負担が増す上、担い手となる教員の意識もかつてと比べて大きく変わってきているからだ。

「希望を持って教員になったが部活の負担に疑間がわいた」。さいたま市の細田真由美教育長は21年末、仕事熱心だった新任教員が語る退職理由にショックを受けた。自身も40年近く教員を務めてきた経験から「学校の充実には部活が必要」と考えていたが、これからの時代は部活には進学に有利になるとの思惑などから指導が過熱する弊害もある。

元ラグビー日本代表の平尾剛・神戸親和女子大教授(スポーツ教育学)は「とにかく教員が忙しすぎる。指導の方法を吟味したり、よい取り組みを他校と共有したりするには働き方の余裕が欠かせない。教員に指導方法を見直すゆとりがなければ、部活の健全化につながらない」と話す。

30年後、野球部員は1校3.5人に…部活動を維持できないケース多発! それでも改革を拒む教育ムラの人々は「部活は大事な学校教育」と言う_2

深刻すぎる子どもの体力低下…落ち続ける平均タイム

一方で子どもの体力低下は深刻だ。スポーツ庁が公表した22年度の小中学生の全国体カテストの結果は、50メートル走など8種目の合計点の平均値が前年度を下回り、08年度の調査開始以来、最低を更新した。中学男子の1500メートル走の平均タイムは6分50秒で18年度よりも17秒遅かった。中学女子1000メートル走は5分3秒で16秒落ちた。50メートル走も小学男子9.53秒、小学女子9.70秒で最も遅い結果だった。

子どもの体力は1980年前後をピークとして低下が進んだ。危機感を抱いた国が08年度、小学5年と中学2年全員を対象とする全国体カテストを始めた。近年は少しずつ改善の傾向がみられたが、18年度から再び落ち込んでいる。

スポーツ庁によると、スマートフォンの利用時間が長くなって放課後の運動の機会が減っていることが一因とみられる。新型コロナウイルス禍で「巣ごもり」傾向が強まった可能性もある。体力低下にどう歯止めをかけるか。学校教育の大きな課題となっている。

教育基本法は「幅広い知識と教養(知)」「豊かな情操と道徳心(徳)」「健やかな身体(体)」の発達を教育の目標に掲げる。いわゆる「知・徳・体」のバランスの取れた育成は学校教育の根幹といえる。その一角である「体」の充実を事実上支えてきた部活の衰退は、人材育成の危機を意味する。