音楽活動を控えていたKERAが、再びミュージシャンとして本格始動した理由
ところが現在のKERAは、“演劇人とミュージシャンの二足の草鞋を履いている”と表現していいほど、音楽活動にも比重を置いている。
2014年再結成の有頂天をはじめ、2013年にムーンライダーズの鈴木慶一とはじめたユニット「No Lie-Sense」、ケラ&シンセサイザーズの跡目を引き継ぎ2022年に結成した新バンド「KERA & Broken Flowers」、そして2016年に27年ぶりのアルバムを発表して再開したソロ活動と、さまざまな形態でのライブや音源発表を積極的におこなっているのだ。
KERAが音楽シーンに本格復帰したきっかけについて尋ねてみた。
「50歳になった年(2013年)、鈴木慶一(ムーンライダーズ)さんが『INU-KERA』のゲストに来てくれて、そのときのトークがきっかけでNo Lie-Senseを始めました。あの鈴木慶一さんが、付き合いでも手伝いでもなく、僕なんかと五分五分でやろうとしてくれてるのだから、これはやっぱり本気で音楽をやんなきゃなと思ったのが、きっかけといえばきっかけです。その年の暮れには、『ロフト4days』というイベントで、有頂天のセッションもやりまして。久しぶりに、ハッカイ(ギター/1985〜1989年在籍)やミュー(キーボード/1986〜1988年在籍)を含む、かつての有頂天メンバーが揃ったんです。そういうことが重なった2013年から、音楽熱がまた高まったんですよね」
KERAはそれまで、Twitterなどで有頂天の再結成を懇願するファンに対し、「再結成に一体何を望んでいるのだ」と非常に冷淡な返しをしていたという。自分の中では“過去のバンド”として終わっている有頂天の再結成など、皆目考えられなかったのであろう。
しかし、それこそイベント限定の同窓会であろうと、久々に集まって出した有頂天の音に、KERAは心動かされた。それまでもケラ&ザ・シンセサイザーズで、たまに有頂天の曲を演奏することはあったが、やはり有頂天が演奏してこそ有頂天の曲が「本物になる」と感じたのだそうだ。
「そのときの打ち上げで、『またこういうのやろうよ』という話が出ました。僕はそんなにしょっちゅう同窓会をやってもと感じていたので、『何か新しいものが作れるんだったらやりたいね』と返し、その後、半年くらいで本当に再結成することになったんですよ」
有頂天はこうして再び全盛期メンバーが集結し、継続的な活動を開始したのである。
ただし、解散から再結成に至るまでの23年間の月日は大きい。かつてのように頻繁にライブを行ったり、次々とニューアルバムをリリースしたりはできない理由もある。
「集まって昔の曲をやるだけなら簡単だけど、メンバーはみんな他に仕事を持っていますから、当然、昔みたいに活発な活動はできません。なにより僕自身が芝居の公演中は動けない。角田(英之/キーボードのシウ)は神主なので正月や夏祭りの時期はダメ。ギターの先生(河野裕一/ギターのコウ)がいて、レコード会社のディレクター(久保隆/ベースのクボブリュ)がいて、魚河岸で働いている人(佐藤仁/ドラムのジン)もいる。だけどこれくらいがちょうどいいんじゃないですかね。僕は他にもバンドや、ソロやユニットをやってるし、有頂天だけってのもバランスが悪いんです。ともかく大切なのは、新しいことをやること。有頂天に関して言うなら今の有頂天をやること。前進することです」