「ジャンプ」の名前を冠する理由

――今回、集英社は「ジャンプTOON」という事業を発表しました。

スマートフォン向けのアプリ「ジャンプTOON」を今後新規で立ち上げます。あわせて、オリジナルの縦読みマンガ作品を作っていきます。

「第1回 ジャンプTOON AWARD」の開催を発表。集英社が今、縦読みマンガ事業に参入する理由_2
「ジャンプTOON」のサイト https://jumptoon.com/

――集英社には他にもマンガアプリがあり、縦読みマンガを販売できる電子書店も多い中で、どうして新しく独自アプリを作るという形になったのでしょうか。

確かに集英社が作った縦読みマンガ作品を、まず外部の書店で展開していくという発表形式もあります。実際、これまで集英社のマンガ編集部や各部署は、それぞれ縦読みマンガの制作にチャレンジしてきたんですね。マーガレット編集部は先ほどもお話した『氷の城壁』、少年ジャンプ+編集部は『タテの国』(田中空)、新規事業開発部では『リバースタワーダンジョン』(牧場ノリ)など……。ただ、この形式だと書店さんから戻していただける販売・閲覧データが限定的なんです。作品のクオリティアップのためには、読者からのデータを緻密に取って作家さんにフィードバックする必要がある。それにはやはり、自社で独自のマンガアプリを立ち上げる必要があると考えました。

さらに、各編集部が個々にやるのではなく、「ジャンプTOON編集部」という、集英社初の縦読みマンガ専門の編集部を同時に設置しました。編集部員には少年マンガに少女マンガ、ライトノベル、デジタル領域など、さまざまな部署出身の多種多様なメンバーが集まっています。

――「ジャンプ」の名前を冠していますが、どのようなコンセプトの作品を作り上げていく予定ですか?

「ジャンプ」というと、「男性キャラが主人公」「特殊能力」「バトルマンガ」といったイメージを持っている方が多いのではないかと思います。でも僕はそう捉えてはいません。僕はジャンプグループに30年弱いますが、時代によってずいぶんラインナップの質は変化しています。
「個性あふれる作家さんと共に作品を作っていく構造」自体が「ジャンプ」だと思っているんです。作家さんのクリエイティビティが十全にあるのであれば、表面的に少年向け、青年向け、少女向けであることは関係なく「ジャンプ」である――つまり、「ジャンプTOON」では、ジャンルを問わず、個性あふれる作家さんがクリエイティビティを活かして縦読みマンガを発表できる構造であることを目指します。

――現在直面している難しさや課題はありますか?

我々はやはり後発なので、先達の方々のすごみは仕事を進める上で常に感じています。たとえば韓国などの制作プロダクションには、制作システムの作り方やコストの抑え方などの仕組み面で、一日の長が明確にある。後発の立場で「追いつけ・追い越せ」を考えるのは課題だなと。

――逆に、集英社ならではの強みはなんでしょうか。

それはやはり、0から1の物語を紡げる作家さんとのつながりがあることでしょうね。マンガ家さんやマンガ原作者さんはもちろんですが、ライトノベル、ライト文芸を発表している作家さんや脚本家さん、イラストレーターさんなど、現在マンガとは違う形態で創作をしているたくさんの作家さんともお付き合いをしています。そのつながりは集英社のアセット(資産)であると考えています。

――今後「ジャンプTOON」が目指しているビジョンを教えてください。

作品を作るだけではなく、生態系を作りたいですね。このビジョンは、マンガ業界の先達である武者正昭さんと江上英樹さんがインタビューで答えていたことに影響を受けています。武者さんたちが言うには、マンガは工業ではなく、むしろ林業だと。山にたくさん木を植えて、そこから5〜10年は平気でかかる。目の前の木が大きい木になるとは限らないということだと、僕は思いました。(※参照:https://gendai.media/articles/-/95175?imp=0

横開きのマンガにおいては、ジャンプグループの編集者が「ジャンプルーキー!」を作って新人を発掘しています。そんな風に、縦読みマンガにおいても、単純に作家さんと目の前の作品を作るというだけじゃなく、作家さんが志望して、自分の力を磨いて、連載が始まって、ヒット作品になる。そういった生態系をデザインする挑戦をしたいんです。非常に大きな挑戦なので、前のめりにやっていっています。