その作品だけのための機能性、必然性
『月がきれい』は、中学3年生の少年少女の初々しい恋愛を、繊細かつリアルに描いた青春ラブストーリーの佳作だ。
「『月がきれい』のロゴはかなり特殊な作り方で……。これは『中学生の手書き文字』を使ったデザインなんです。最初は明朝体のようなきれいな書体がいいかな、と考えていたんですが、本当に“シンプルなだけのロゴ”がベストなのか疑問が湧いてきて。
次に、もう少し中学生の恋愛らしい生っぽさを表現するために、手書き文字にしようと考えたけれど、大人が中学生っぽい文字を意識して書いても劇中の中学生のピュアさが出ない。ならばリアルな中学生に字を書いてもらおうと考えてみました」
そこで実際に、ある中学校の1クラス30人の生徒に、「遠くに住む友人に手紙を書くような気持ち」「家族に手紙を書く気持ち」「好きな人への手紙を書く気持ち」の3パターンで、「月がきれい」と書いてもらった。しかし、そのままロゴとして使えるような「月がきれい」は見つからず……。
「30人に3パターンずつ書いてもらえば、これだっていういい字が見つかると思っていたんですが。でも、これがリアルな中学生の字なんだ、と考え方を切り替えました。
そして、誰かの文字を選ぶのではなくて、1画ずつ違う生徒の文字を組み合わせるという手法にたどりついた。こうして、男女どちらでもなく、誰のものでもないけれど、たしかに“中学生の字”でできたロゴが完成したんです」
でき上がったのは、中学生らしいあどけなさの中に、どこか繊細で端正な雰囲気が漂うロゴ。
「同作のファンの方々にどう受け取ってもらえたかはわかりません。でも、『この作品にはこのロゴしかない』、そんなロゴにできたんじゃないでしょうか。
タイトルロゴはただかっこよかったり、おしゃれだったりすることより、その作品だけのための機能性や必然性、ストーリー性のあるデザインが重要だと思っています」
目的に対して機能させる――。この一点を突き詰めた結果、かくも多種多様なタイトルロゴが生まれている。まるで日本のアニメ文化の多様さを、そのまま体現しているかのような風景だ。
取材・文/寺井麻衣
画像提供/ビー・エヌ・エヌ