インフルエンサーになればタダで映画を宣伝できる
──監督はWeibo(微博/中国版のTwitterのような投稿サービス)旅行関連インフルエンサーランキングにおいてNo.1(23年1月時点)、個人の総SNSフォロワー数630万人、番組などを含めた竹内関連の総SNSフォロワー数は 1031万人(現時点)とのことですが、何をきっかけにこんなに人気になったのでしょう?
簡単に言うと、ヒット作を連発したからというのが最大の理由です。WeiboがTwitterと違うのは、ひとつの動画プラットフォームになっていること。TwitterとYouTubeが合体したようなものなので、つぶやきも見られるし、動画も見られます。
私の場合は、始めてから5〜6年間、毎日何かしらをアップしています。普段発表している動画は短いもので1〜2分、長いもので30分くらい。ドキュメンタリーに限らず、対談動画やIT企業の最前線を取材したもの、グルメ、社会問題を扱ったものなどをバンバン公開しています。
最近アップしたのは妊婦さんの物語。Weiboを通じて中国全土から取材を受けてくれる妊婦さんを募集して、密着ドキュメンタリーを作りました。中国も日本と同じように少子化が進んでいるので、「なぜ今、子供を産む選択するのか?」をテーマにしました。
じゃあ、どうやって収入を得ているのかと聞かれるのですが、フォロワー数が多いので、広告案件も入ってくるんです。自分のオリジナルの動画の他に、PR動画を作ることで収入を得ています。
──毎日投稿をし続けることも相当な労力だと思います。
結局ドキュメンタリーはマイナーですし、どんなにいい作品を作っても見てもらえなかったら意味がない。そこらへんの商業映画より面白いドキュメンタリー作品は世の中にいっぱいあるんです。だけど、ほとんどの人に知られないまま消えていく。
であれば、私自身が影響力を持つ以外、見てもらう方法はないぞと思ったんです。自分がインフルエンサーになればタダで宣伝できますしね。
──最初にバズったのは?
2020年に作った南京のコロナ対策を紹介した動画でした。感染者を抑えている実情を撮影したら、中国でも日本でもめちゃくちゃ話題になりました。
そのときに日本のネットで言われたのが、「CGを使ってスタジオで撮ってるんだろう」ということ。中国発信のいいニュースは、すべて嘘だと決めてかかっているんです。スタジオで南京の街を再現できるわけがないし、そんなお金ないですよ(笑)。
──他には、どんな作品が注目を集めましたか?
今回のドキュメンタリーウィークで上映している『お久しぶりです、武漢』(2020)、『大涼山』(2021)、『ファーウェイ100面相』(2023)はすべてバズりました。特に、ロックダウン解除直後の武漢を描いた『お久しぶりです、武漢』は、中国全土の映画ランキングで1位になりました。
なぜバズったのかというと、誰も見たことがないものだったから。例えるなら、原発事故があった直後に福島に行くようなものだったと思います。当時は、武漢にメディアがほとんど入っていなかったですし、現地の人の本音をあそこまで描いた人がいなかったことが理由だと思います。
インタビューをした10人の市民は、全員私のフォロワーたち。取材に応えてくれる人をSNSで募集したんです。元々作品のファンなので、私のことを信用してくれているんですよね。だから素直に自分の心のうちを明かしてくれました。信頼関係ができている状態から撮影ができる、SNS時代の新しい取材の仕方だと思いましたね。
──SNSといえば、『再会長江』に登場する長江上流域の街シャングリラに暮らすチベット族の女性も印象的でした。姉は10年前に親が決めた相手と結婚しましたが、20代前半の妹はTikTokなどSNSでさまざまな情報に触れていて、「30歳まで結婚したくない」と語っています。この10年で価値観が大きく変化している象徴的なシーンでした。
ネット文化が進んでいるので、どこに住んでいようと情報は入ってくるんです。中国では今フェミニズムの運動が起こっていて、日本の社会学者・上野千鶴子さんが大ブームになっています。著書もすごく売れていますしね。
だからこそ、「どうして親の決めた人と結婚しなきゃいけないの?」という価値観を持ったチベット族の女性が出てきている。思想改革が起きているんです。日本人が知らない中国の今を、僕の作品を通して知ってもらえたらと思っています。