『ゴジラ』にも身震いするほど腹が立つ!?
アメリカという国の銃をめぐる問題は いまだに解決していないけれども、これからも子供たちに観てほしいと願うスピルバーグの思いが、銃で脅すような内容を排除したくなったのは想像できます。ところが、ショットガンのアップのカットがなくなったせいで、ジョン・ウィリアムズが編集された映像にガッチリ合わせた音楽が余ってしまうことになりました。数秒にも満たないカットではあるものの、そこの音楽を編集でつまんだだけでは違和感は拭えませんでした。少なくともその20年間何度となく繰り返し観続けた高校生のなれの果てとしては。
曲想的には、それまでのチェイスシーンのスピード感が追っ手をまいたことでちょっと緩み、安心感さえ漂わせますが、それも束の間、道の左右から捜査官が襲いかかります。音楽に緊張が戻り、そして前方の路上には警察車両が行手を阻むように停車してあり、車両の中からショットガンを手にした警官が…不安感が湧き上がり、一気に追い詰められるように絶望的な運命を予感させるリフが奏でられ——。
あれ? その絶望に向かって急降下していく音楽の駆け上がりというか、この場合転落していくための助走が、ショットガンのカットを切ってしまったためになくなって、その直後の大逆転へのジャンプボードがなんとも中途半端になっているではありませんか。シーンの長さを調整すると、絵にピッタリ合わせて作られた音楽は調整した分だけズレてしまうので、本来であれば別のカット、もしくは前後のカットの長さを延ばして帳尻を合わせる必要がありますが、20年前に完成している映画の編集用素材がもはや存在してないのか、あるいは編集した音楽で問題ないと誰かが判断したのでしょうか?
問題大アリだよ! ダメだよ映画の一番大事な場所を雑に切っちゃうなんて! 警官たちをかすめて離陸する自転車の風圧を受けて、以前はなかった枯葉がCGで付け加えられてハラハラと舞い上がったりするんですが、そういうことじゃない! 音楽に感動を委ねる気が満々なのに、わずか2小節ないだけで膝の裏側を押されてヘナヘナと萎えてしまうのです。刷り込みのせいなのかもしれませんが、余計なことしやがって! これじゃ台なしだよ!と、憤懣やる方ない私に同調するものは今に至るまで誰もいないのです。みんなそんなに『E.T.』好きじゃないのかなぁ…?
同様に『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019)でベアー・マクレアリーが担当した音楽からは、伊福部昭作曲のゴジラのテーマのイントロの最後がすっぽ抜けているのも、あのハワイの和太鼓保存会みたいな掛け声なんか比べ物にならないほど…身震いするほど腹が立つのですが、こらも狭量が過ぎるってもんなのでしょうか?
最近スピルバーグは、改訂からまた20年経ってやっと、20周年記念版に対し、否定的なコメントをリリースしました。その結果、20周年版は闇に葬られることになるのです。現に最高画質の4K-UHD版はオリジナル版のみ。今回の原稿を書くために探したけど、むしろ見つけるのに難儀しました。あれだけ忌み嫌っていたのに、なかったことにされると、あのやたら動きすぎる3DCG版宇宙人も愛おしくなってくるから不思議なものです。
文/樋口真嗣