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就活本は100年以上前から
「最近の若者はダメだ」と書き続けている!

――山口先生が2023年2月に出版した『就活メディアは何を伝えてきたのか』(青弓社)(以下、本書)では、明治時代から現代までの就活に関する書籍やWebメディアについて分析しています。 就活の歴史を調べたなかで、印象に残った点を教えてください。

もっとも印象深かったのは「就活メディアの論調はその当時の景気に左右される」ということです。好況期には「今後伸びる業界はこれだ」「今、こんなビジネスが流行っている」といった、企業や業界に関する内容が多くなり、不況期には「どうすれば就職できるのか」といった就活生自身に関する内容が増える傾向があります。

この傾向はなんと、第一次世界大戦や昭和恐慌のころから変わりません。つまり就活メディアは、その時点での景気に左右されるため、必ずしも普遍的な内容ではないのです。

――本書では、就活本などで語られる内容の矛盾やあいまいさを数多く指摘しています。執筆以前から 「就活本の内容はいいかげんでは?」という疑いの目はありましたか 。

就活本に対する疑念はありましたね。就活のテクニックを手ほどきしたり、社会人の心構えを説いたりする書籍は、かなり以前から就活生に読まれていましたが、場当たり的な面接テクニックや、「これをやれば絶対に合格する!」などのノウハウなど、根拠の薄いいいかげんなことを書いている印象もありました。本書を執筆して、その予想はそれなりに当たっていたと感じています。

―― 「根拠の薄いいいかげんなこと」とは、具体的にどのようなものでしょうか。 

時代ごとの景気に左右される就活本ですが、なぜか「若者批判」だけは100年以上変わらない伝統です。1916年に出版された『実業青年成業の要義』(博文館)には、当時の若者を「気力に欠ける」「実務を知らない」などと批判する内容が記されています。

とはいえ、当然ながら時代ごとに優秀な経営者やビジネスパーソンは輩出され続けているので「ある世代の若者がダメだった」とは言えません。私自身も「新人類」と呼ばれた世代なので上の世代から揶揄されてきましたし、就活本における若者批判は通過儀礼のようなものなのかなと。

「就活 つらい」という学生の期待水準を上げてしまう就活メディア。100年以上前から就活本は「最近の若者はダメだ」と書き続けているのに_1
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――「大学の勉強は役に立たない」という批判も、100年以上前からあるようですね。

先ほど述べた『実業青年成業の要義』には「実業家になるならば大学の勉強はいらない」といった内容が記されています。最近も「大学は実業の役に立つことを教えろ」といった批判が根強いわけですが、それは日本経済が好調だった高度成長期にもバブル期にも言われ続けているわけです。

私自身、大学の教員として大学教育に問題意識を持ってはいるのですが、「大学の勉強は役に立たない」という主張はお決まりの論調だと言わざるを得ません。