「だって、大輔やもん」
4月、東京。シーズンを締めくくる世界国別対抗戦で、かなだいはさらなる進化を見せている。
ほとんどの選手たちが、長いシーズンの疲労を引きずり、パフォーマンスレベルを落としていたにもかかわらず、ふたりは解き放たれたようだった。
RDでは、世界選手権のスコアを5点以上も上回ったのである。
「後半も考えずに(同じ)テンションのままに滑れて、それがうまくいきました」
高橋が言うと、村元もうなずいた。
――どんなプログラムをやりたいですか?
2019年9月のカップル結成時、村元に訊いたことがあった。
「ふたりとも顔が濃いんで、ラテンダンスとか面白そう!」
何気ない言葉もつながっていた。RDの『コンガ』も運命的なプログラムだった。
フリーでは、高橋が16年ぶりに同じ東京体育館でシングル時代と同じ『オペラ座の怪人』を滑った。当時、世界選手権で初のメダルを勝ち獲っていた。
また、師弟関係を結んでいた長光歌子コーチが、マリナ・ズエワコーチ不在により、時を超えてキス・アンド・クライで同席。あらゆる縁がひとつに結びついて、空から降ってきたようだった。
ピタリと重なった運命が、奇跡をつくり出したのか。ふたりは世界選手権を上回るシーズンベストスコアを記録している。
「自分の中で、記憶に残る演技をしたいというのがスケート人生の目標でした。それが叶ったのがうれしいです」
村元は言った。
「いろいろ運命的なプログラムを、思い入れがある場所で、最高の演技ができました。ここに来るために今シーズンがあった!って感じちゃおうかなって思っています(笑)」
高橋は悪戯っぽく笑った。
3年目、彼らは走り抜けた。長光コーチは、啓示的にこう語っていた。
「アイスダンスに転向したときも別種目だし、関係者が聞いたら鼻で笑う挑戦だったかもしれません。でも、彼に関わったことがある人は、『いけるかもね』と思ったはず。
なんかやるんじゃないかっていつも思ってしまう。『だって、大輔やもん』って(笑)。彼は夢を見せてくれるんです」
この先、かなだいはどこへ向かうのか?
「何を見せられるか、わかり切れていません。どこが最終か、ピークがわからないから、何を見せたいかも言えなくて。もし続けるなら、それを知りたい。何を見せられるのかを知りたいです」
高橋の言葉は、いつも誇張や嘘がない。
文/小宮良之
写真/AFLO