失敗の風景に見えた真価

年末、全日本選手権での優勝も必然だったと言えるだろう。

「自信? あるように振る舞っています。そう自分に言い聞かせて」

大会前、高橋はそう言って笑っていたが、ポジティブな言動が目立った。

「(五輪シーズンと比べて)変なプレッシャーを感じず、練習から動けているという違いはあります。いろいろと考えすぎたので、今回は『何も考えない』っていうのをお互いで言い出して。

それをテーマに、欲を出さず、練習を信じて、練習してきた以上のことはできないと」。

RDでズレを調整できたのも進化の証だった。

前日練習と比べると表情に気負いがあったのか。最後のリフト、7秒間の時間制限を超え、1点の減点を受けた。ポジションの切り替えで動きが詰まって、足を下ろすのが遅れてしまった。

「練習からいい感じだったのですが。氷の上に立ったとき、急に緊張が高まってきて。自分の中で、少し動きが固かったかもしれません」

村元は正直にそう明かした。

「音のはまりはよかったんですが、お互いのリズムのズレが少し出ました。バシッといくと本当に気持ちいいんですけど」

高橋も悔しがった。しかし、彼らは高い次元で戦っていた。ミスは最小限だった。77.70点で、首位発進した。

フリーでは、すでに作品性が極まり、国内では他を寄せ付けなかった。108.91点で1位。トータル186.61点で全日本初優勝を成し遂げた。

最後で転倒するアクシデントはあったが、失敗の風景にこそ、かなだいの真価はあった。

演技直後、怪人役から素に戻った高橋は、人懐っこい表情で悔しがる。それを見る村元が、自分の胸をポンポンと叩いて励ました。微笑ましい様子に、満員の観客が共感し、万雷の拍手を送る。のどかな熱気が会場全体に広がった。

「(転倒で)何が起こっているのか、理解できないくらいショックで。お客さん、なんで笑っているんだろう?って(笑)」

高橋は言うが、それだけ役に入り切っていたのだろう。一方で、改善の分析も怠っていなかった。

「(転倒したリフトは)タイミンングのところで。僕が早く起き上がってしまい、哉中ちゃんがまだ上がり切っていなくて。そこから持ち上げないといけなかったんですが、上げきれずに。

踏ん張ったんですが、そのまま前にバランスを崩してしまって。体力的なところで、もう少しあれば力でいけたかもしれないし、タイミングと両方ですかね」