生まれて初めて食べたのは……
先日、初めての味覚を体験した。
モーニングの朝食で「三浦野菜&鎌倉野菜のサラダ」を頼んだ。さまざまな野菜の中にフグのフリットやワラサの刺身が混ざったカラフルな一皿だ。その中に茶色く光るジャーキーのようなものがあった。いわゆる「映え」そうな食材がひしめき合う中、異彩を放っている。恐る恐る噛んでみると、しっかりした塩味と奥深いコクが口の中に広がる。たまたま日本料理屋でバチコを食べたばかりだったので、それかと思った。
バチコとは、なまこの卵巣を干したもの。まさかこんなファッショナブルなサラダにバチコ? しかし、その正体を聞き、またもや驚いた。なんと鹿肉の生ハムだった。丹沢の鹿肉を干してから、葡萄の枝でスモークをかけたという。
鹿肉のハムを食べたのは生まれて初めて。味が何層にもなった、忘れられない生ハムだ。この日はサラダの中の一アイテムだったけれど、いい赤ワインでこの生ハムだけを食べてみたい。
この日、デザートで選んだのは「春菊のティラミス」。カスタードソースの代わりに春菊のペーストやこし餡が使われており、乾燥した蕪の葉っぱが飾られ、小松菜のパウダーがかかった緑色のティラミスである。おもしろいアイデアだった。気を衒って見えないのには、この店に流れる風通しの良さも一役買っていると思う。
ベーカリーとしても地元の人たちの生活に根付いて
開業は2021年7月だが、まだまだこれからの進化が楽しみな店。今はモーニングとランチの営業だけれど、ディナー営業も期待している。夕暮れ時にテラスで飲んだら気持ちがいいだろうなあ。そして、店の奥、江ノ電の線路沿いには畑を開墾中で、たくさんのハーブや野菜が育てられている。採りたての葉っぱのサラダやむしったばかりのハーブを添えたみやじ豚のソテー、なんてことが近い将来可能になりそうだ。もしかしたら、これを書いているうちに実現しているかもしれない。
そして、書いておかなくてはならないのはベーカリーとしても地元の人たちの生活に根付いているということ。子供のいる家庭には「ふわふわパン」や「ねじりパン」が人気。ねじりパンは誰しもが給食で食べたことがあるはずのあれだ。
私がイチオシなのは、「リンゴと胡桃のフォカッチャ」と「生姜のフォカッチャ」。こちらはワインやウィスキーのあてにも良さそうな大人っぽい味わい。イチオシといいながら二つ、推してしまったが。パンだけを買いに、和田塚駅を降りることもよくある。片岡さんに、パンはどこのブーランジェリーで修行したのか尋ねてみたら、「YouTubeです」とのこと。時代がどんどん変わっているのですね。
写真・文/甘糟りり子
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