生まれて初めて食べたのは……

先日、初めての味覚を体験した。
モーニングの朝食で「三浦野菜&鎌倉野菜のサラダ」を頼んだ。さまざまな野菜の中にフグのフリットやワラサの刺身が混ざったカラフルな一皿だ。その中に茶色く光るジャーキーのようなものがあった。いわゆる「映え」そうな食材がひしめき合う中、異彩を放っている。恐る恐る噛んでみると、しっかりした塩味と奥深いコクが口の中に広がる。たまたま日本料理屋でバチコを食べたばかりだったので、それかと思った。
バチコとは、なまこの卵巣を干したもの。まさかこんなファッショナブルなサラダにバチコ? しかし、その正体を聞き、またもや驚いた。なんと鹿肉の生ハムだった。丹沢の鹿肉を干してから、葡萄の枝でスモークをかけたという。

江ノ電・和田塚駅から徒歩2歩。地元に根付きつつある古民家カフェで出会った生まれて初めての味_4
忘れられない味となった鹿肉の生ハムの入ったサラダ

鹿肉のハムを食べたのは生まれて初めて。味が何層にもなった、忘れられない生ハムだ。この日はサラダの中の一アイテムだったけれど、いい赤ワインでこの生ハムだけを食べてみたい。


この日、デザートで選んだのは「春菊のティラミス」。カスタードソースの代わりに春菊のペーストやこし餡が使われており、乾燥した蕪の葉っぱが飾られ、小松菜のパウダーがかかった緑色のティラミスである。おもしろいアイデアだった。気を衒って見えないのには、この店に流れる風通しの良さも一役買っていると思う。

江ノ電・和田塚駅から徒歩2歩。地元に根付きつつある古民家カフェで出会った生まれて初めての味_5
緑色のティラミスも気を衒っては感じられない

ベーカリーとしても地元の人たちの生活に根付いて

開業は2021年7月だが、まだまだこれからの進化が楽しみな店。今はモーニングとランチの営業だけれど、ディナー営業も期待している。夕暮れ時にテラスで飲んだら気持ちがいいだろうなあ。そして、店の奥、江ノ電の線路沿いには畑を開墾中で、たくさんのハーブや野菜が育てられている。採りたての葉っぱのサラダやむしったばかりのハーブを添えたみやじ豚のソテー、なんてことが近い将来可能になりそうだ。もしかしたら、これを書いているうちに実現しているかもしれない。

江ノ電・和田塚駅から徒歩2歩。地元に根付きつつある古民家カフェで出会った生まれて初めての味_6
ベーカリーとしても地元の人たちに愛されている

そして、書いておかなくてはならないのはベーカリーとしても地元の人たちの生活に根付いているということ。子供のいる家庭には「ふわふわパン」や「ねじりパン」が人気。ねじりパンは誰しもが給食で食べたことがあるはずのあれだ。

江ノ電・和田塚駅から徒歩2歩。地元に根付きつつある古民家カフェで出会った生まれて初めての味_7
子供たちに人気のねじりパン
すべての画像を見る

私がイチオシなのは、「リンゴと胡桃のフォカッチャ」と「生姜のフォカッチャ」。こちらはワインやウィスキーのあてにも良さそうな大人っぽい味わい。イチオシといいながら二つ、推してしまったが。パンだけを買いに、和田塚駅を降りることもよくある。片岡さんに、パンはどこのブーランジェリーで修行したのか尋ねてみたら、「YouTubeです」とのこと。時代がどんどん変わっているのですね。


写真・文/甘糟りり子

「甘糟りり子が選ぶ鎌倉商店2023」開催中

鎌倉育ちで素敵な鎌倉ライフを発信している作家・甘糟りり子さんが選んだ鎌倉の逸品を紹介・販売するフェアを、代官山 蔦屋書店1号館 1階 ブックフロア開催中。

今回のフェアにあわせて自身で選書もしており、お母さまである作家、エッセイストの甘糟幸子さんによる1986年刊行の食エッセイ『料理発見』(アノニマスタジオ)が復刊してお目見え。
「鎌倉商店」に集うお店の紹介コメントともども必見です。
美味しいもの、素敵なもの、面白い本を探しにぜひ。

詳細はこちらから

鎌倉だから、おいしい。
甘糟 りり子
江ノ電・和田塚駅から徒歩2歩。地元に根付きつつある古民家カフェで出会った生まれて初めての味_8
2020年4月3日発売
1,650円(税込)
四六判/192ページ
ISBN:978-4-08-788037-3
この本を手にとってくださって、ありがとう。
でも、もし、あなたが鎌倉の飲食店のガイドブックを探しているのなら、
ごめんなさい。これは、そういう本ではありません。(著者まえがきより抜粋)

幼少期から鎌倉で育ち、今なお住み続ける著者が、愛し、慈しみ、ともに過ごしてきたともいえる、鎌倉の珠玉の美味を語るエッセイ集。
お屋敷街に佇む未来の老舗(イチリンハナレ)、自営の畑を持つ野菜のビーン・トゥー・バー(オステリア・ジョイア)、カレーもいいけれど私はビーフサラダ(珊瑚礁 本店)、今はなき丸山亭の流れをくむ一軒(ブラッスリー・シェ・アキ)、かつての鎌倉文士に想いを馳せながら(天ぷら ひろみ)……ガイドブックやグルメサイトでは絶対にわからない、鎌倉育ちだから知っているおいしさと魅力に出会える1冊。
素材が豪華ならいいというものでもない、店の内装もまた味わいの一端を担うもの、いいバーとバーテンダーに出会う喜び……著者自身の思い出や実体験とともに語られる鎌倉のおいしいものたちは、自然と「いい店」「いい味」ってこういうことなんだな、という読後感をくれる。
版画のように精緻なタッチで描かれた阿部伸二によるイラストも美しく、まさに読んでおいしい、これまでなかった大人のための鎌倉グルメエッセイ。
amazon 楽天ブックス honto セブンネット TSUTAYA 紀伊国屋書店 ヨドバシ・ドット・コム Honya Club HMV&BOOKS e-hon