パンデミックを予言したかのようなブラジル映画『ピンク・クラウド』

コロナが生んだ唯一の功名!? ジャンルとして確立された“ロックダウン映画”が名作すぎた_3
ピンクの雲によって部屋の中に閉じ込められた主人公のジョヴァナ(ヘナタ・ジ・レリス)
Everett Collection/アフロ

『ソングバード』のアイデアは、実際にロックダウン下の生活を否応なく経験させられたことで生まれたもの。一方でブラジル映画『ピンク・クラウド』(2020)の場合は、パンデミック前の2017年に脚本が書かれ、2019年に撮影された映画という点でまさしく予言的作品だ。

物語は、突如として世界中に発生した10秒で人を死に至らしめるピンクの雲により、緊急事態宣言下で家から一歩も出られなくなった世界を描いている。

主人公であるジョヴァナとヤーゴは、ほとんど見ず知らずの他人。一夜限りの関係のつもりで朝を迎えたところだった。ところが図らずも、その先の人生を共に過ごしていく以外の選択肢がなくなってしまう。

やがて妊娠・出産を決意したジョヴァナは、オンライン助産婦の助けを借りてヤーゴとの間の長男リノを出産。リノは家の中という狭い世界しか知らずに成長し、ヤーゴとともにその環境に適応していくものの、ジョヴァナは仮想現実世界へ逃避していく。

“致死率100%のピンク色の雲”という象徴的な設定は、かつて黒澤明が『夢』(1990)の「赤富士」のエピソードで描いた、危険を可視化するために放射能に着色した新技術(プルトニウム239は赤、ストロンチウム90は黄、セシウム137は紫)を思い出させる。

が、何よりも考えさせるのは、いきなりのロックダウンによって、たまたまそのときに誰とどこにいたかによって、その後の人生が規定されていくリアリティ、そして恐ろしさだった。