知財=汗と涙の結晶を守る仕事

――難しいイメージのある「知財」ですが、『それパク』では予備知識のない人にも分かりやすく、楽しく読めると評判です。そのために、心がけたことはありますか?

実務のリアリティをなるべく保ちかったので、他の部分では極力ストレスを与えないポップで読みやすい語り口や話運びを心がけました。専門家にとっては当然の事実でも、なにも知らない人は真剣に悩んだり怒ったりしているわけで、そのギャップを亜季と北脇の対話のなかで丁寧に埋めていくようにしています。

そもそもこの物語は知財部員に感情移入してもらわなければならないのですが、世間では知財の権利者は権利を振りかざし、目くじらをたてていると捉えられがちなので、そういう冷たい印象ではなく血の通った人間が頑張る話として受けとってもらえるよう、「汗と涙の結晶を守る仕事」というコンセプトをたてて物語を展開しました。

それから、わたしはキャラクター同士の関係性を楽しんでもらってなんぼのライト文芸作家である自負があるので、専門的な説明やセリフを読み飛ばしても、キャラの物語として楽しめるようにかなり意識して描いています。

――作品内で、いちばん気に入っている登場人物は誰でしょうか? 理由も教えてください。

やはり亜季と北脇には思い入れが深いです。知財という一見とっつきがたい話題を取り扱っている以上、キャラクターの魅力がなければ読んでもらえないので、このふたりは魅力ある人物として描くよう努力しました。

とくに北脇は当初、情熱はあるものの淡々として面白みのない人物だったのですが、それでは魅力に薄いと当時の編集さんにダメ出しされて、今のようなキャラになりました。『いいやつ』な部分と、こだわりが強くて面倒くさい部分、それらをまるっとごまかすビジネスマンとしての外面を併せ持った、けっこう複雑でよいキャラになったんじゃないかなと思っています。そして亜季は、普通なら見過ごすかもしれない北脇の『いいやつ』な一面にきちんと目を向けられる主人公的なキャラクターで、こちらも気に入っています。