統一感があるのは、選択眼がぶれていないからだろう
ここは光を楽しむ空間でもある。
店内には、わざわざ見に行くべき照明が至るところに効果的に配置されている。葡萄を思わせるアンティークのライトだったり、竹細工で作られた作家ものだったりさまざまで、中には買えるものもある。
美術家の上岡ひとみによる和紙の照明は、和紙も自然のものなのだと再確認させてくれる。彼女の月を思わせる丸い照明は明日にでも購入を考えるぐらい気に入ってしまった。
人気のランチメニューは三陸・雄勝の牡蠣カレー。濃厚トマト味とココナッツミルク味の2種類がある。一年じゅう獲れるという四季牡蠣を使った無添加で、味の監修はスパイスハンターのシャンカール・ノグチ氏というこだわりようだが、黒いオーバル型の器にもこの店らしい個性が感じられる。その黒がしっとりとした色合いでエレガントなのだ。
宮城の伝統工芸「雄勝硯」を釉薬に使っていると聞いて、納得した。黒い器はアグレッシヴ過ぎて、肝心の料理が映えないのではという私の偏見を見事に打ち砕いてくれた。「黒照:クロテラス」というブランドの「アピスとドライブ」のオリジナル商品で、これも買うことが可能である。
ここには、器、照明、缶詰、クッキー、ケーキ、シャツ、バッグ、化粧品、ほうき、しゃもじ、蝋燭、などなど、暮らしにまつわるあらゆるものが並べられている。着物の端切れで作られた人形や本、アートなどもある。こんなに多方面に渡っているのに統一感があるのは、選択眼がぶれていないからだろう。
その店の個性は化粧室に現れると何度も書いてきたけれど、ここの化粧室の鏡もティッシュケースも石鹸もすべてがすてきなので、用がなくても用を足しにいってほしい。
ちなみに、店主は学生時代に原宿のセントラルアパートにあった「レオン」の系列店でバイトをしていたそうだ。「あんなお店になられたらいいなと思っています」とのこと。原宿のレオンといったら当時のクリエーターの溜まり場だった“伝説の喫茶店”である。青山通りに系列店があったことは知らなかったが、鎌倉の佐助に「レオン」みたいな空間があったら、そりゃあおもしろいだろう。期待したい。
写真・文/甘糟りり子