ジョニー・デップ時代の幕開け
トム・クルーズが正統派ハリウッドスターだとすれば、5月号、11月号の表紙を飾ったジョニー・デップは長年にわたり日陰を歩いていた個性派だ。なにしろ、盟友ティム・バートン監督をはじめ、ジム・ジャームッシュ監督(『デッドマン』1995)、テリー・ギリアム監督(『ラスベガスをやっつけろ』1998)といった鬼才との仕事を優先し、美しい顔をウィッグやメイクで隠す役柄を好んできた。
だが、ディズニー大作『パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち』(2003)に出演、同年夏に全世界公開されると、一気にワールドワイドでメジャー・シーンのスターとなる。
最大の功労者は、同作プロデューサーのジェリー・ブラッカイマーだ。ブラッカイマーはアクション映画『ザ・ロック』(1996)の主人公に、ニコラス・ケイジを起用して大成功を収めていた。いまとなっては信じられないかもしれないが、かつてのニコラス・ケイジもまた風変わりな作品ばかりを選ぶ個性派であり、カルト的な人気のある『リービング・ラスベガス』(1995)でアカデミー主演男優賞にも輝いた演技派である。
そんなニコラス・ケイジをハリウッド大作に起用したことで、荒唐無稽なエンタメ映画に、リアリティや意外性を加えることに成功する。これがきっかけで、『コン・エアー』や『フェイス/オフ』(両作とも1997)『60セカンズ』(2000)『ナショナル・トレジャー』(2004)と、ブラッカイマーはケイジを重用していくことになる。
『パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち』のジャック・スパロウ役のキャスティングにおいて、ブラッカイマーの脳裏にニコラス・ケイジの成功体験がよぎったに違いない。一方、オファーを受けたジョニー・デップにしても、ニコラス・ケイジとは旧友で、ディズニー大作への出演をきっかけにキャリアが好転したことを知っていた。
その賭けは大成功し、『パイレーツ・オブ・カリビアン』は大ヒットシリーズになり、それまで“ツウ好み”だったジョニー・デップは、そのミステリアスな魅力で、世界中の映画ファンを虜にしていく。老若男女の全レイヤーに受けがいいため、「ロードショー」もジョニー一色に染まっていくことになる。
ちなみに、大作映画&個性派俳優のブラッカイマー・ケミストリーは、ほかの大物プロデューサーたちも見習ったか、その後『アイアンマン』(2008)におけるロバート・ダウニー・ジュニアの起用でも踏襲されている。シリアスな演技派や往年の大物たちが、こぞってスーパーヒーローものに登場している現状は、このころに原点があるのだ。
◆表紙リスト◆
1月号/トム・クルーズ 2月号/アンジェリーナ・ジョリー 3月号/オーランド・ブルーム 4月号/イライジャ・ウッド 5月号/ジョニー・デップ 6月号/オーランド・ブルーム 7月号/ダニエル・ラドクリフ 8月号/エマ・ワトソン 9月号/ダニエル・ラドクリフ、エマ・ワトソン、ルパート・グリント 10月号/キーラ・ナイトレイ※初登場 11月号/ジョニー・デップ 12月号/トム・クルーズ
表紙クレジット ©ロードショー2004年/集英社