原油高&コロナ禍で精子も値上げ
ただし、最近は精子にも値上げの波が押し寄せてきた。クリオス社は「値上げ額は非公表」とするが、伊藤氏によれば「過去3年間で数回、精子の価格を引き上げている」という。その理由の一つが、原油高に伴って精子ストロー(精子用の凍結保存容器)などの原材料費が高騰していること。もう一つはコロナの影響だった。
「コロナ禍で世界的に(精子の)注文量がかなり増えました。それは、会食やイベントなどが制限されるなか、出会いの場がなくなったり、家族の大切さを知ったりして、シングルの女性を中心に『子どもを持ちたい』という意識が高まった影響があると考えられます」
「一方、精子の供給を増やすには、ドナーの方にデンマークや米国などにある弊社の拠点へ来て頂き、定期的に精液を採取する必要があるのですが、コロナの影響でその機会も減りました」
つまり、増加する注文に精子の供給が追い付かなくなってきた、と。これは欧米の他の主要な精子バンクも同じ状況で、いま、世界的に「精子の取り合いが激しくなっている」のだという。
「弊社の場合、精子を提供してくれたドナーの方にはその補償として、交通費などの実費や休業補償相当の金額を支払っています。ただ、この補償額には英国の場合で35ポンド(5600円程度)などと各国で上限が定められており、これを増額するわけにはいきません」
「そこで、ひとりでも多くのドナーを確保するため、登録済みのドナーの方が新しくドナーとなる方を紹介してくれた場合に2名分の映画チケットを配布したり、精子提供に来て頂いた方にスナックやドリンクを無料で提供したりしています。また、(ドナーが精子を採取する)採精室をリノベーションするとともに、最新のVRを導入しました」
そのVR映像の一部がクリオスのYouTubeチャンネルで紹介されているが、そこにはランジェリー姿で迫ってくるブロンドヘアの妖艶な女性が。没入感のあるVR映像を取り入れることで、「より精子を提供しやすい環境を整えた」というわけだが……。
ともあれコロナ禍で値上げが相次ぐなかでも、国内ではクリオスの精子を購入する人が増え続けている。“第三者の精子”にすがらざるを得ない人たちにとって、その存在が救いになっているのは確かといえそうだ。
写真/shutterstock
著者 興山英雄