「市長、アーケードちゃうわ。これからは子育てや」
――なぜ、明石は子ども向けの政策を重点的にできたのでしょう?
弁護士として、社会福祉士として子どもの貧困や虐待を防ぎたいという思いが常々ありました。それで市長になった時、子どもを大切にする政策を重点的にやりたいと考えたんです。
もうひとつは私が経営者の視点を持てたことが大きい。政策には財源が必要で、市長は経済を回して財源を作る経営者の視点が必要となります。その経済の回し方も2種類あって、商売人や企業を応援して経済を回す方法と、市民を支援してお金を使えるようにする方法がある。私は後者を選びました。
子育て世代は養育費で大変です。ここを支援すれば、可処分所得が増えて地域経済が活性化して税収&財源が生まれる。実際、明石市はこの8年間で税収が32億円もアップしました。この好循環が明石市の子育て政策の充実につながったと自負しています。
――政治は投票率の高い高齢者を優遇するシルバー民主主義に傾きがちで、子ども向けの政策は後回しになりがちです。
たしかに私も当初は総スカンでした。市長に就任してすぐに公共事業予算を減らして子ども政策にお金を投じると、議会や業界団体から反発されたものです。でも、市長になって6年目ぐらいから、結果が見え始めたんです。
何が起こったかというと、人口増と建築ラッシュです。市の人口が増えてお金が落ち出したので、反発していた商店街や建設業界の対応が変わった。たとえば、商店主の多くが「何で泉はアーケードを作ってくれない!」と私に不満タラタラでした。それに対して私は「アーケードでは客は来ない。それより子育て層を支援したら、商店街にお金が落ちるようになります」と説得していたんです。
6年目から本当にお金が落ちだすと、商店街の店主たちが一転、「市長、アーケードちゃうわ。これからは子育てや」と言い出すようになって(笑)。公共事業を減らされて怒っていた建設業界も市の人口増で建築ラッシュが始まると、「民間需要が忙しくてありがたい」と喜んでくれるようになった。子ども向け政策を重視すると選挙で不利になるというのは思い込みでしょう。
――公共事業の予算を削って、長期的に大丈夫なんですか。
土木費などは緊急性がないものも多く、工夫次第で減らせます。たとえば、市営住宅建設は私が市長になってから全面的に中止しました。その代わり、少ないコストですむ空き家対策や民間のアパート建設を支援する施策を拡充しました。
また、600億円かかるとされた下水道整備計画も、よくよくヒアリングすると100年に1回のゲリラ豪雨時に10軒の民家の床上浸水を防ぐために捻り出された計画だとわかった。10軒のために600億円もかけて市内の下水管をすべて太い新品に替える必要はない。
危険な地区だけを予算150億円で下水管を更新する計画に変更し、450億円を浮かせました。それで公共インフラは充分に機能します。