「人付き合い」が苦手な子供の増加
学校は何も卒業資格を取るためだけにあるのではない。生まれも育ちも違う同年代の人たちとかかわり、意見を交わしたり、力を合わせて何かを成し遂げたりすることで、人間として生きていく力を育むための空間でもある。その面が疎かになれば、子供たちの心の成長に支障が出てくる危険がある。さらに教員はつづける。
「2つ目としてあるのが、人付き合いが苦手な子が増えたことです。今の子供たちはどこへいても『アツ(圧力)を感じる』といいます。コロナの影響もあるのですが、それ以前から多様な人たちと自由に触れ合う機会を奪われています。
そのため、人と生身で接することをできるだけ避けようとする傾向が顕著なのです。だから、先生とも生徒とも直接かかわらずに済む通信制へ行こうと考えるのです」
生まれつき他者とかかわることが得意な子供はいない。大多数は最初は苦手でも、人と接していくうちにだんだんと慣れ、集団の中で生きていく力を身につけていくのだ。こうした努力をせず、苦手だというだけで避けてしまえば、ますます人とかかわることが難しくなる。それが本人の生きづらさを生むことも十分にあるだろう。
私は通信制の高校が果たす役割は大きいと考える立場だ。
これまで障害のある子供や、難病と闘う子供が通信制高校へ行き、そこで自分のペースで無理なく学びを深め、社会へ羽ばたいていった姿を数多く見てきた。それゆえ、通信制高校が増えることには賛成だ。
ただし、先の教員が危惧するように、通信制高校へ行く必要がない子供たちまでもが、それを選択しているのであれば、また別にしっかりと考える必要のある問題ではないだろうか。少なくとも、県の教育委員会が「多様な学び方を求める生徒が増加したため」といって終わらせていい問題ではない。
なぜ通信制高校の志望者が増えているのか。近年の傾向、そしてコロナ禍の影響との関係性は何なのか。もう一歩踏み込んで、この現象を考えていく必要があるのかもしれない。
取材・文/石井光太