現代アートの拠点、直島に行こう! 

ここで少し日付は飛んで、車中泊旅6日目(2023/1/18)の話になる。
瀬戸大橋を渡って本州側へ戻っていた僕はその日、現代アートの拠点として有名な、瀬戸内海に浮かぶ小島、直島へ行こうと考えていた。

直島は、行政的には四国の香川県に属する島だが、岡山県の宇野港からカーフェリーで渡るのが一番近い。
行き当たりばったり旅なので直島行きは、前夜、車の中で地図を見ていてふと思いついた。

念のためネットを使って調べてみると、島内に点在するアートのうち、屋外展示物は自由に見学ができるものの、ベネッセハウスミュージアムや安藤忠雄設計の地中美術館、それに「家プロジェクト」(現代アートによってリノベーション古い民家や寺社)の屋内見学などは、事前に時間指定予約が必要ということだった。

しかしサイトを見てみると、どこもまったく予約ができない。
翌日も翌々日も予約不可で、可能なのは3日後の土曜日以降ということがわかった。

急ぐ旅ではないが、このために3日後まで足止めされるわけにはいかない。
屋外展示物は見られるようだし、それに予約がいっぱいでもキャンセルなどにより若干の当日券が出ることもあるという情報があったので、とにかく島へ渡ってみることにした。

不運続きの車中泊旅。鳴門の渦潮、直島、圓教寺……訪れた人気観光スポットが、ことごとくガラ空きだった理由_6
直島行きカーフェリーへの乗船を待つ愛車

軽自動車+ドライバー1人のフェリー料金は、片道1960円だった。出港から20分ほどで、直島の宮浦港に着いた。

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岡山県・宇野港⇄直島・宮浦港を結ぶカーフェリー「おりんぴあ どりーむ せと」

直島の屋外展示物では特に、草間彌生による水玉模様のカボチャのオブジェが有名だ。
カボチャは2種類あり、2006年に制作された大きな『赤かぼちゃ』の方は、宮浦港の敷地内にあるということだった。

有名な草間彌生作『赤かぼちゃ』は、
無粋な作業用コーンに囲まれていた

フェリーから降りてすぐ港の駐車場に車を停め、さっそく『赤かぼちゃ』のある方に向かってみたのだが、近づくにつれ「あれれ〜?」という気持ちになった。
内部に入ることもできるはずの高さ4m・幅7mの巨大カボチャの周りにはコーンが並べられ、立ち入り禁止になっていたのだ。
作業服姿の何人かがカボチャを囲み、ペンキで外側の色を塗り直している。
どうやらお化粧直しの作業日だったようだ。

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お色直し中の『赤かぼちゃ』

まあ、仕方がないでしょう。
そういうこともあるでしょう。

気を取り直して、車で島の反対側の本村地区へ移動。
家プロジェクトの『護王神社』や『南寺』を、外側から見学した。

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家プロジェクト『護王神社』
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家プロジェクト『南寺』
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2015年竣工の直島ホールもアートな建築物

しかし、ここで僕はおかしいなと思いはじめていた。
あまりにも、人の気配が薄いのだ。
僕のように島内の地図を片手に、屋外のアート巡りをしている人がチラホラいるにはいるが、いくらド平日とはいえあまりにも寂しい雰囲気だ。

古い建物が並ぶ住宅街の中を歩き、家プロジェクトの『角屋』に来ると、門が少し開いていて、中に人がいるのが見えた。
屋内の床面に施された、電球を使ったアート作品らしきものも見える。

きっとスタッフがいるだろうから、当日券のことを尋ねてみようと思って敷地内に入り、玄関をガラガラと開けてみると、中にいた若い3人の男女が驚いたように僕の方を振り返った。
少しひるみながら「あのう、今日って見学できますか?」と尋ねると、1人が「すみません、今日はメンテナンスで、ダメなんですよ」と答えた。

さらによくよく聞いてみると、実は今週の直島は一斉メンテナンス中で、チケットの必要な施設はどこも見ることはできないと言うではないか。

な、なるほど〜。
し、知らんかった〜。

全島メンテナンス中の直島だったが、
救いとなった『南瓜』と柴犬

島内にはまばらながら、外国人を含む観光客が歩いている。
彼らは、メンテナンス休業中だということを知ってて、敢えて来ているのだろうか?

僕は失意の中、草間彌生作の2つ目のカボチャ作品、『南瓜』に向かった。
1994年に制作された、直島のシンボル的作品である『南瓜』は、2021年8月の台風によって大きく破損してしまったが、復元制作されて2022年10月から同じ場所に展示されているという。

半ばやさぐれながら「黄カボチャもどうせ、分解清掃かなんかしてるんでしょ」と思いながら歩く僕の目に入ってきたのは、桟橋の突端で海をバックに佇む、綺麗な『南瓜』の姿だった。

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綺麗な『南瓜』が見えて救われた

多くの観光客が、今日の直島でほぼ唯一であるこの“映えスポット”を逃すまいと写真を撮っていた。
僕も負けじと写真を撮りまくる。

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フォトジェニックな『南瓜』

僕と同様、1人で見学に来ているらしい女性のスマホのシャッターを押してあげたついでに、「今日、こんなにメンテナンス中だって知ってました?」と聞くと「知りませんでしたよ〜。『赤かぼちゃ』の作業も、あれ、一日中やってるんですかね?」と残念がっている。

やっぱりそうか。
今日、直島をウロウロしている人たちは、この僕と同様、下調べの不十分な行き当たりばったりタイプの旅行者なのだな。

「簡単には終わりそうにない雰囲気でしたね。僕は、作業員も含めて現代アートと思い込むことにしましたよ」と言うと、「なるほど。それ、いいですね〜」と笑ってくれた。

とにかく、タイミング最悪の直島訪問だったので、とっとと切り上げて岡山県に戻ろうと考えて帰ってきた宮浦港で、最後にすごくカワイイ子と出会えた。

柴の子犬だ。
ウヒョオと思って触っていると、近くにいた港の作業員らしいおじさんが、「連れて行かんといてよ。うちの犬やから」と言ってきた。
「3ヶ月くらいですか?」と聞くと、「まぁそんなもん」とぶっきらぼうに答えた。
この適当な感じがいい。
柴犬とおっさんというのは、よく似合うものだ。

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やさぐれ気味だった心を癒してくれた柴の子

かくして、あっという間に本州へ逆戻り。
結局、直島には3時間しか滞在しなかった。
アートと生活が混然一体となった島全体の雰囲気を味わえたのは良かったが、どう考えても不完全燃焼だ。
ここも、またいつか再訪するしかない。

鳴門の渦潮といい直島といい、どうも今回の旅はタイミングを外しがちだ。
「よく調べてから行けばいいのに」と言われれば反論の余地もないのだが、それにしてもツキがない。

そして、翌日に訪れた兵庫県姫路市で、またしても僕は打ちのめされることになる。