『スター・ウォーズ』(1977~)や『インディ・ジョーンズ』(1981~)シリーズなどで知られる世界的大スターのハリソンですが、素顔は非常にまじめできちんとした、まったくスターっぽくない人です。彼自身もスター扱いされるのが嫌いで、“スター”でも“アクター”でもなく、「I am just a storyteller」というのが口癖。あくまでも“物語の語り部”であると控えめに言うあたりが、いかにも彼らしい。
もうひとつの口癖が「I was lucky」。30歳すぎまで俳優として目が出ず大工として生計を立てていた彼が、ジョージ・ルーカスに見出されて『スター・ウォーズ』、『インディ・ジョーンズ』という2大シリーズで一躍大スターになったのだから、本当にラッキーよね。
売れない時代に当時盛んだったポルノ映画のオファーがあったときも、俳優という仕事にプライドを持っていた彼は断った。まっすぐな彼の人柄がわかる、個人的にとても好きなエピソードです。
私が初めて会ったのは『スター・ウォーズ』のPRで1978年に来日したとき。映画公開前だったから当然まだ無名で、一緒に銀座のお蕎麦屋さんに入ったときも、誰も目もくれませんでした。最初の奥さんと別れたばかりだったので、2人の子供を連れてきて『クレイマー、クレイマー』(1979)のようにシングルファーザーとして世話をしていました。
その彼が、その後、今のようなスーパースターになるとは!
私が特に好きな1本は、『刑事ジョン・ブック 目撃者』(1985)。他の作品のようにアクション満載のヒーローものではないけれど、とつとつとした彼の人柄が一番現れている、良質なヒューマンドラマでした。

売れない時代にポルノ俳優のオファーもきていた往年の名優・ハリソンフォード…戸田奈津子が見た、売れる前にシングルファザーとして来日した姿
字幕翻訳の第一人者・戸田奈津子さんは、学生時代から熱心に劇場通いをしてきた生粋の映画好き。彼女が愛してきたスターや監督の見るべき1本を、長場雄さんの作品付きで紹介する。
長場雄が描く戸田奈津子が愛した映画人 vol.24 ハリソン・フォード
口癖は「I was lucky」
『刑事ジョン・ブック 目撃者』(1985)Withness 上映時間:1時間52分/アメリカ
駅のトイレで偶然、殺人事件を目撃してしまったサミュエル(ルーカス・ハース)は、文明社会から距離を置き、自給自足の生活スタイルを維持しているキリスト教一派アーミッシュの少年。事件を担当する刑事ジョン・ブック(ハリソン・フォード)は、サミュエルが目撃した犯人が同僚だと知り、警察組織全体の不正を直感。母親のレイチェル(ケリー・マクギリス)とサミュエルを守るために街から脱出し、アーミッシュの人々と共同生活しながら、真相究明のために奔走する。第58回アカデミー賞で5部門にノミネートされ、脚本賞と編集賞を受賞した。
ハリソン・フォード
1942年7月13日、アメリカ・イリノイ州シカゴ出身。1966年に『現金作戦』で映画デビュー。1977年に『スター・ウォーズ』にハン・ソロ役で出演し一躍人気スターに。『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981)でインディ・ジョーンズを演じ、人気を不動のものにした。代表作は『ブレードランナー』(1982)『刑事ジョン・ブック 目撃者』(1985)『パトリオット・ゲーム』(1992)『逃亡者』(1993)『今そこにある危機』(1994)『エアフォース・ワン』(1997)『K-19』(2002)『ブレードランナー2049』(2017)など。大ヒットシリーズ5作目『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(2023)が公開中。
語り/戸田奈津子 アートワーク/長場雄 文/松山梢
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