©長場雄/集英社オンライン
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50回くらい映画館で見た、映画芸術の全てが詰まった1本

『白夜の決闘』(1946)『ジェニーの肖像』(1947)『旅愁』(1950)など、女学生が好むようなロマンティックなラブロマンスに出演していたジョセフ・コットン。私も当時、かなりお熱を上げていました。彼の出演作を追いかける中で、「字幕翻訳家になろう!」と思うほどハマった極めつけが『第三の男』。

以来、映画館にお金を払って50回くらい見に行きましたし、頭の中にDVDがあるようなもので、今も詳細に思い出すことができます。映画には音楽、キャメラ、ストーリー、俳優、美術などいろんなエレメントがあるでしょ。そのすべてがビシッとハマっていて、1本のもの凄い芸術を作っている。私はそう思いますね。見るたびに胸が震えるの。

日本で公開されたのは、私が16歳だった1952年。撮影時のジョセフ・コットンは44歳だから、ティーンエイジャーからするとしわくちゃのおじさんに見えたんです。それでも素敵だと思えたのは、父を早くに亡くしていたからかな。ゲイリー・クーパーやジョン・ウェインのような二枚目俳優はほかにもいたし、『第三の男』でも共演したオーソン・ウェルズのような天才的なカリスマもいた。それでも私は、ジョセフ・コットンの渋くて知的な雰囲気に惹かれていたのね。