ついに感情を失ってしまう

この時点で、花奈ちゃんは2歳児用の紙おむつを着用できるほどに痩せ細っていたという。論告書は、清美さんの供述をもとにした、花奈ちゃんが97年夏に北九州市に連れて来られてからの変化にも触れている。

〈片野マンションで生活するようになった当初は、花奈は、通電などの虐待を受けることはなく、和室で寝ていた。花奈は、甲女と一緒に、SPEEDの「Wake Me Up !」という曲を歌いながら掃除をするなど、明るい子であった。
 
しかし、孝、和美、智恵子及び隆也が片野マンションで生活するようになった平成9年(97年)11 月ころ以降は、花奈は松永から些細なことで怒られ、通電を受けたり、叩かれるなどの暴力を受けたりするようになった。

花奈は、松永にトイレを制限されていたし、トイレに行くときも、甲女が同行する必要があった。また、花奈は、寝るときはいつも布のひもで両手両足を縛られていた。平成10年5月末ころには、花奈は、片野マンションで生活を始めたころと比べて、顔や身体が一目見て分かるぐらいに痩せていた〉

また論告書は、花奈ちゃん殺害を意識した松永が、清美さんに対しても、“あること”を指示していたことを明かす。〈佑介の解体が終了した5月末ころ、松永は、甲女に対し、「今までは甘くしてきたけど、もう許さない。」などと言い出して、甲女を(片野マンションの)和室から追い出した。

以後、甲女は、台所で、花奈と一緒に寝るようになった。しかし、甲女は、松永の怒りを買うようなことは何もしていなかった。いま思えば、由紀夫(清美さんの父)の時も殺害直前ころは由紀夫と一緒に生活させられていたから、松永は、殺すつもりでいる相手の監視役をさせていたのかもしれない〉

清美さんも、花奈ちゃんがやがて殺害されることを予見していたのである。
〈甲女は、花奈を殺した後は、死体解体をするのは緒方しかいなくなるため、今度は自分も手伝わされると思い、嫌な気持ちであった〉

連日の虐待によって、〈花奈は特に体調の不良を訴えることはなかったが、身体は痩せ、常に無表情だった〉という状態になっていた。論告書は殺害前日の出来事について、以下のように説明する。

〈花奈殺害の前日である平成10年6月6日ころ、松永は、緒方に対し、「花奈ちゃんも、死にたいと言っている。」と言った。これに対し、緒方が、「殺すんですか。」と尋ねたところ、松永は、「まだ、はっきり分からん。」と答えた〉