「データ分析」と「感覚」の両輪で進む
桜井社長の話を聞いていると、データ分析と人間の感覚のどちらが正しいか、ではなく、その両方を組み合わせることが大切だとわかってくる。
「日本酒の原料になる米にしても、たとえば9月から10月くらいの時期の気温が高いと米が硬くなりやすいなど、ある程度データで特性を掴むことができます。データだけですべてが理解できるわけではありませんが、100年前にはなかった技術があるわけですから、あるものは使ったほうがいいと思います」
また、データ分析によって仮説の答え合わせができることが重要だと、桜井社長は重ねて指摘する。
「美味しい酒ができなかった場合でも、データを取っていれば『失敗した』ということがよりシビアにわかります。杜氏だったらおそらく嫌がると思いますけど。自分の失敗が、明確にわかってしまいますからね。でも、失敗も成功もブラックボックス化して『酒は経験と勘とロマンで作っていくものだ』なんて言ってしまうと、何年経っても味は進化していきません」
また「技術者の育成」という面でも、データ分析の功績は大きいという。
たとえばタンクの温度を0.1度上げるとしても、ゆっくり上げるのか急激に上げるのかで変わってくる。結局そこには人の経験が介するのだが、データを記録することで、成功したかどうかの答え合わせができる。その答え合わせができることで「経験値の積みやすさが確実に変わってくる」と桜井社長は断言する。
旭酒造の事例からは、データと人間の経験の両輪が重要だということがはっきりと伝わってくる。データ活用、ことにAI活用に関しては道半ばかもしれないが、そもそも「美味しい酒」という目標にゴールはなく、テクノロジーの活用に関しても永遠に「道半ば」なのかもしれない。
「データの蓄積やテクノロジーの進化によって、今まで見えなかった部分が浮き彫りになってくれたら、と期待しています。それは絶対、いいお酒をつくるためには必要だと思っているんです。同じことを繰り返していても、昨日よりいい酒を作るのは難しいでしょうから」
旭酒造は、常に昨日よりも良いものを目指して挑戦し続けている。奇跡の酒・獺祭のさらなる進化が楽しみだ。
取材・文/小平淳一
写真提供/旭酒造株式会社