AI を試したからこそわかる「わからないこと」
2018年には、富士通および富士通研究所と共同でAI活用に対する実証実験に取り組み始めた。製造過程で計測したさまざまなデータをAI予測モデルにかけることで、酒造りのプロセスを最適化しようという狙いだった。
「挑戦してみたものの、実際にやってみるとなかなかうまくいきませんでした。AIを使っても、酒造りを始めて1〜2年目のスタッフが導き出せるくらいの予想しかできなかったのです。それは決してAIが悪いというわけではなくて、美味しい酒を作るための条件が非常に複雑だということなのです」
同社が計測しているデータは多岐に渡る。最初は酵母の温度経過と室温の2種類だけだったが、そのうち、アルコール度数、お米の溶け具合、アミノ酸、ピルビン酸など、次々と増えていった。しかし、「どんなに計測するデータの種類を増やしても、数値を追っているだけでは美味しい酒はできない」と桜井社長は語る。
「たとえば、同じ米、同じ酵母を使って同じ日に仕込んだものでも、味が違うことがあります。また、甘い・辛いなどの数値が同じになっていても、出来がいいものと悪いものがある。AIを取り入れて、酒造りにはまだまだわからないことがいっぱいある、そしてAIには出来ない部分が確実にあると改めて気付かされました」
現在AIを使う実証実験は依然として続いているが、試行錯誤の繰り返しの状況だ。それほどまでに、美味しい酒造りというものは一筋縄ではいかない作業なのだ。