美味しい酒に欠かせない「人の感覚」
同社では、毎朝「利き酒」を行っているという。前日絞った酒がデスクに並べられ、味をチェックする。このとき、各種データが記録されたシートを一緒に眺め、味がよくないと感じたときはデータも見ながら原因を探る。味がいいかどうかの判断はあくまで人間の感覚であり、味覚センサやAIが決めているわけではない。
「私たちの酒造りは、辛さの度合いやアルコール度数などの数値を決めて、そこに合わせていくというアプローチではありません。美味しいことが重要であり、数値の違いなどは関係ない。『美味しい酒』という曖昧なゴールに対して、データと人間の味覚を照らし合わせながら微調整していく。非常にアナログな感覚でやっているのです」
たとえば、味がよくないと感じたとき、データを見ながら「もう少し早めに温度を上げておいたほうがよかったのでは?」などといった仮説を立てる。この仮説を立てるのも人間が行う。仮説をもとに少しずつ調整を加えていき、うまくいったり、失敗したりを繰り返しながら、味をとことん追求していくのだという。
「あやふやなものを解釈して、大まかに網を張って答えを導き出すというのは、まだAIよりも人間のほうが強い部分だと思います」
杜氏の勘に頼った酒造りをやめたとはいえ、それは決して人の感覚を否定するものではない。美味しい酒を作るには、やはり「人」が欠かせないのだ。