宝塚の舞台は基本的に男役中心で構成されており、人気の高いオスカルも男役によって演じられる。そのため、「オスカル編」や「フェルゼン編」といった男役をメインに据えたバーションが存在する。
だが、国の過渡期を背負っているような、アントワネットの歴史的重要性が際立つ断頭台のシーンを見ると、オスカルはあくまで架空の人物であり、フェルゼンはアントワネットあっての存在であると痛感させられてしまう。

娘役によって演じられるマリー・アントワネットはヒロインであると同時に、ときに男役によるメインキャラクターをも凌駕するほどの絶対的な存在なのである。

フランス革命という動乱期を必死で生きた登場人物たちの愛と信念を描いた『ベルサイユのばら』。同時に、無知で王妃としての自覚が希薄だったマリー・アントワネットが、国家の危機に直面したことによって目覚め、運命に立ち向かっていく成長物語とも読める本作は、フランス人の歴史観に一石を投じ、宝塚歌劇において唯一無二のヒロインを誕生させた。

そうしたアントワネットの姿は、オスカルほどわかりやすい形ではないが、日本女性に自らの意思で人生を切り拓いて欲しいという池田の想いが託された存在なのである。

過去読んだことのある方は、マリー・アントワネットの女性像に改めて注目しながら、これから先も語り継がれていくであろう、名作『ベルサイユのばら』に触れていただきたい。

文・写真/石坂安希  ©池田理代子プロダクション/集英社 
内閣府画像出典/「共同参画 令和4年1月号」(内閣府 男女共同参画局)
https://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2021/202201/pdf/202201.pdf