高畑充希のためにゼロから作られた贅沢な舞台
──舞台『宝飾時計』は、子役から女優として活躍している30歳のゆりか(高畑充希)を取り巻く物語ですが、作品ができた経緯から教えてください。
根本宗子(以下・根本) 充希ちゃんから「わたしにお芝居を書いてほしい」とお声かけいただいたのが4〜5年前。そのときから、私もものすごくご一緒したかったんですけど、もう少し自分の筆を鍛えてからご一緒したいという気持ちが強くて。
何を書いても成立させてくれる俳優だと思うので、それでは充希ちゃんに助けてもらうだけで終わってしまう。ちゃんとコラボレーションができると思えるタイミングで書きたいと思っていました。
コロナなどいろんなことがあるなか、自分も充希ちゃんも30代になって。そのときに感じていることを話していたら、互いに共鳴する部分があったんです。演劇界を引っ張っていく30代の充希ちゃんと、一緒にやるべきビジョンやテーマが浮かんだタイミングで、書き始めました。
俳優さんから声をかけてもらって戯曲を書く経験は初めてだったので、今の我々がやるならどういう題材がいいのか、いつも以上に考えた作品です。
高畑充希(以下・高畑) 今回は根本さんが書いてくださった戯曲もそうだし、神田恵介(keisuke kanda)さんが手掛けた衣装、椎名林檎さんが作ってくださった楽曲も含めて全部がゼロからできたもの。舞台をやる人間として、ここまで贅沢なことはなかなかないなと思って。日々、恵まれていることを実感しながら稽古をしています。
あて書きをしていただいたので、もっと「お前はこういう人間だ!」と突きつけられる、ザワザワする台本になるのかなと勝手に想像していたんです。でも全然そんなことはなく、エンタメになっていて。
私が演じるゆりかは私でありながら、やっぱり私ではない。根本さんの演出を受けながら色々試したり、崩したりしながら作り上げる作業がすごく楽しいです。
ただ、会話劇だから台詞も多いし、気持ちが通った言葉を投げなければいけないので脳が想像以上に回転しているみたいで。稽古をしている今は、家に帰ってからの寝落ち率がすごいです(笑)。
──主人公のゆりかは30歳で、おふたりも30代です(高畑さん31歳、根本さん33歳)。30代女性ならではの思いを届けたいという考えもあったのでしょうか?
根本 ここ5年くらいの世の中的なブームとして、30代女子の生き様をフィーチャーした作品が増えてきていると思っていて。なんとなく視野を広く持とうというテーマなのに、作品を見ると視野を狭くするものが多い気が個人的にはしていて、ずっとそこが気になってきました。
その中で、個人的にはあまりフェミニズムを訴えかけるタイプの作風ではないですし、30代女性のためだけの物語とは思っていなくて。
モチーフが30代女性なだけで、例えば60歳の男性が見たとしても、その方なりの受け取り方がしてもらえるような、間口の広い芝居を作れたらいいなと思っています。
あと、今回は演劇でしかできない表現をいつも以上にしている戯曲です。俳優陣の演劇偏差値の高さに助けられているので、そういう芝居を生で見るという、シンプルな理由で楽しんでもらってもいいなと思っています。
──高畑さんはいかがですか。30代の今こそ演じられる作品だという感覚はありますか?
高畑 がむしゃらに突っ走ってきた20代を経て、自分のためだけに生きていくことに若干飽きてきたな、という感覚はすごくあって。それは劇中にも描かれていますが、女性だけでなく、年齢の近い男性と話していても同じことを考えている人が結構いて。
だから人は家族を持つのかもしれませんが、その感覚は、台本にも楽曲の歌詞にも入っているし、30代特有の心境なのかなと思っています。今の年齢だからこそ、とても深く腑に落ちる気がしています。
──同世代という強みを感じる部分はありますか?
根本 もともと充希ちゃんはミュージカルが好きでこのお仕事を始められた人。私も小さいときから舞台を見るのが好きだったので、仕事の始まりもちょっと似ているし、感覚的に近いところはあると思います。
もちろん全部がわかるわけじゃないし、全部同じなわけでもない。でも同世代で性別が一緒だと、経験してきたパーツが似ているし、共通言語の多さはあるのかなと思います。