長編応募までの苦悩をどうやって乗り越えたか

――では、長編作品で公募に挑戦したのは今回ノベル大賞を受賞した『早乙女さん、特務です』が初めてということでしょうか?

はい、初めてです。ノベル大賞への応募以前には、未完作品OKだった他社の公募で佳作をいただいたことがあります。ただ、未完だったのであまり自信には繋がりませんでした。また、BLの電子レーベルでも1本書かせてもらったことがありますが、その時は「もう自分で締め切りを決めないと一生書けない」と思ったので、原稿を募集していたBLの電子レーベルにシナリオの仕事の実績を持って「私の作品を刊行してもらえませんか?」と売り込みをかけて、締め切りを決めてもらってようやく書き上げたという感じで…。

そんな経緯があったので、今回の受賞作を完成させるのも簡単ではなかったです。原稿自体を書き上げたのは結構早かったんですが、そこから応募するまでの間、原稿を見直して推敲して、自分が納得できる完成度に仕上がるまで試行錯誤する時間が長かったですね。一か月ぐらいは手元で揉み続けていたと思います。推敲中に筆が止まった時は、短編小説新人賞で受賞した『ホテルアムステルダムの老婆』を読み返して「これを評価してもらえたのだから、私は大丈夫だ」と自己暗示をかけていました。

――ノベル大賞に応募してから、結果が発表されるまではどのように過ごしていましたか?

なるべく結果を意識しないようにしました。正直「もう今回はダメだったと思っておこう」というぐらいの気持ちで、気をそらすために次回作の構想を練ったり、次に応募する公募先を探したり……。自分にとっては、長編を一本書き上げたこと自体がひとつの成功体験だったので、この勢いを失わないように次の目標を作っておこう、なんて考えたり……。そうかと思えば応募作を読み返して、自分で納得できない部分を見付けて落ち込んだり…………。

そんな時に、編集部から最終選考に残ったという連絡を受けたんです。それ以降は、最終結果が出るまで気もそぞろで、神頼みで神社へお参りに行ったりもしてました。受賞の知らせをいただいた日も、最後の最後まで意識したくない気持ちが大きすぎて、気を紛らわすためにお酒を飲んでいたんです。そのせいで情緒がおかしくなってしまって、編集部から「受賞しました」のお電話をもらった途端、嬉しいという気持ちがこみ上げる前にいきなり涙が溢れました。

それで、泣いていることを相手に気取られないよう、必死にこらえながら電話で応対しました(笑)。