大賞受賞! そして推敲、改稿、書籍化へ!

――受賞作『早乙女さん、特務です』(集英社オレンジ文庫より『このビル、空きはありません! ~オフィス仲介戦線、異常あり~』として12月20日刊行)を通して、度読者に伝えたかったことはなんですか?

何よりも、この作品でやりたかったのは、頑張っている人を描くことです。今の時代、頑張ってもどうにもならないことが多いせいか、「頑張ることが必ずしもよいことではない」とか、「頑張るなんてかっこ悪い」という捉え方もある。でも、自分の人生を振り返ると、自分が頑張っていた時や、誰かが頑張っているのを見ていた時の記憶がすごく残っているんですよね。

それで「頑張る」ことへの素直なリスペクトは、私だけでなく、多くの人が抱いている気持ちなのではないかと思ったんです。自分で作った世界でなら、頑張っている人たちのキラキラしたところや挫折を素直に描くことができる。それが誰かを勇気づけるものになればと思い、この作品を着想しました。

もうひとつ、自分が経験した「オフィス仲介」という仕事の面白さを書きたかったんです。「不動産」をテーマにした物語には先行作品がたくさんありますが、「オフィス仲介」はこれまであまり取り上げられることがなかった。私も不動産業界にいた時、誰かに「不動産の仕事をしている」と言うと、「街の不動産屋さん」をイメージされることが多かったので、この仕事のことをもっと人に知ってもらいたいなとずっと思っていました。

――受賞後、文庫化に向けてどんな作業がありましたか?


受賞の連絡をもらって、すぐに改稿作業に取りかかりました。ありがたいことに選考委員の先生方にいただいた選評に受賞作の不足点が網羅されていて、それをもとに改稿の方向性を決めました。応募作を書く段階で苦労したのは、早乙女さんのキャラ造形。というのも、これまでBLを書いてきたものの、本作ではなるべくBLっぽさが出ないようにしたい、と気を遣いすぎた結果、キャラクター性を削りすぎたみたいで、選評で「早乙女さんの印象が薄い」という指摘を受けたんです。

その他にも、自分では気づかなかった部分を指摘されて、目からウロコが落ちましたね。自分では「ここがもう一歩足りないと思うのだけれど、何をどうしたらよくなるのかわからない」とモヤモヤしていたところを、具体的に指摘してもらえてありがたかったです。そして、指摘を受けて原稿を直していると、芋づる式に他の部分も直すべきところが見えてくる。

自分で読み返してわかりづらいな、と感じたところを、もう一度つきつめて考え直すと、本当に言いたいことが書けていなかったり、言いたいことを書くための正確なプロセスをたどれていなかったり……直しの作業をしているうちに、そういった部分に気づいて、トータルで修正することができました。原稿を真っ赤にしてしまったんですが、じっくり改稿に取り組むことができて本当によかった。応募作を一人で書き上げるのは大変でしたし、改稿作業はそれ以上に大変だったんですが、それをこえる楽しさがあり、満足いく作品に仕上がりました。

文庫化作業を通して、もうひとつ驚いたのは、商業出版される作品のタイトルやパッケージが、いかに練り上げられているかという点です。文庫化の作業中、書店に並んでいる本を見ながら「作る側の視点」で解説してもらう機会がありました。なぜこういうタイトルなのか、このパッケージになっているのか、そういう部分まで考えに考えて作られているんだなと驚きましたし、今後は自分もタイトルやパッケージまでトータルに練り上げた作品を作りたいなと思っています。